スロウライダー 「ホームラン」

クリス君の高校時代からの友人ヤマナカ君が主催する劇団「スロウライダー」の公演を見に行った。
前回「アダム・スキー」が面白かったので引き続き、ということで。
ミキさんと3人で。場所は王子小劇場


東京は今日も暑く、新宿を歩いていたら汗が出て止まらなかった。
そんなときにもミキさんは日傘をさして着物。前回お会いしたときと同様に。
たいしたものである。
(とはいえ毎日着物ではないようだ。本人いわく「普段着の5.5%」)


タイトルは「ホームラン」となっていて、バッティングセンターが舞台なのに
内容はなぜか電波系というかUFO系。
前回のタイトル「アダム・スキー」には宇宙人の話はちっとも出てこなかったのに。
その辺のはぐらかし感覚にこの劇団のスタンスというか佇まいがよく現われている。


例によって舞台装置は凝りまくり。前回以上ではないか?
どっかの地方都市のバッティングセンターのどこかで見たような風景・風情を完璧に再現。
緑色の鉄骨が四方に組まれていて最初は劇場のを利用しているのかと思ったらそんなことはなく、
よく見たら天井とつながってない。
後でクリス君と話していたらあれは木製で、バットがぶつかったときの音がおかしかったとのこと。
どちらにしてもすごいもんだ。
ステージは1階部分(休憩所)と2階部分(ネットが張られている)に分かれていて階段でつながっている。
バッティングセンターの大きな色褪せた看板が掛けられている。
長年風雨に晒されて、何十年か前のオープン時からそのままといった雰囲気がよく出ている。
稲中卓球部」から抜け出してきたようなバッターのしょぼい絵も脇に描かれている。
どこから探してきたのか、本物の自販機とインベーダーゲームの台が置かれている。
(よく見ると Caca Cola のロゴが手書き)
サラ金の広告まで貼られている。どっかからかかっぱらってきたのか、それとも自作なのか。
おしぼりを温めておく小さな冷蔵庫みたいなやつとか「○×注意」や消火設備の位置を示す札、
バッティングセンターの注意事項を書き出した看板だとか。
あくなきリアリティーの追求。
クリス君曰く、現実と非現実の境目を行き来するようにして話が進んでいくから、
リアルなセットがどうしても必要となるのではないかとのこと。もっともだと思う。
それにしてもこういう手間暇かかった舞台装置を
毎回ステージの度に構築するとなるとお金もかかるし時間もかかる。
今回のバッティングセンター、いったい何日で作成されたのだろう?


話の構成も舞台装置に負けず劣らず緻密。
両者がきっちり噛み合ってて、
ありがちなようにどちらか一方に物足りなさを感じることはないのだから、
演出力として優れたものがあるなと感心させられる。


この宇宙はトカゲ系とグレイ系の宇宙人たちによる勢力争いが日夜繰り広げられ、
トカゲ系の宇宙人たちは地球人の大多数に金属製のチップを埋め込んでいる。
チップを埋め込まれた人間は奴らの発する電波によって操られているのであるが、
当の本人たちはそのことに気付いていない。
・・・といった「たわごと」を心の底から信じている頭のおかしい若者を取り巻く
地方のカルタ/将棋メーカーの従業員たちによるへなちょこ野球部の話。
これだけならよくありがちなんだけど、
今回の「ホームラン」の設定でユニークなのは
その地方ではUFOは虫のようによく取れるものであって
大きいのが空で静止していても人々はなんとも思わないというところか。
現実と非現実。舞台上の現実と非現実が常に入り混じるようになっていて
見てる方は最初から最後まではぐらかされることになる。


伏線張りまくって後半「ああそうか、そういうことだったのか」と唸らされるタイプの脚本なので
最初のうちは彼ら(宇宙人の存在を恐れている若者と、その若者を持て余している周りの人たち)
による奇妙なやり取りがどこに向かっていくものなのかちっともわからない。
次のシーンで何が起こるのか予測がつかない。
それでも物語はダラダラ拡散することもなく、意味不明な難解さに逃げることもなく、
きっちりかっちり大きな揺るぎない流れに組み込まれて進んでいく。
乗客を見知らぬ世界へと連れて行くのに、その列車にはレールがきちんと敷かれ、時刻通りに運行される。
力足らずで「この役者なんだかなあ」「この演出なんだかなあ」と思わせることがないので、
後はもう観る人の好みの問題なのではないだろうか?
こういう話が好きかどうか、こういう雰囲気が好きかどうか。
僕はこういう話大好きだし、それを語る雰囲気、語り口はもっと好きだ。


ここから先は劇団としての、主宰者としての、演劇に賭ける気持ちの大きさや
抱いている具体的なヴィジョンの非凡さやリアルさに負うところが大きくなってくるんだろうな。
その辺の部分では少しばかり迷いがあるように僕には感じられた。
技術力は高いのに、今一歩踏み込んで突き抜けることができないまま
「こちら側」に踏みとどまっている。
なんだか惜しい。
見終わった後、クリス君が制作の人と話していたのを聞いてたら
どこまで本気なのか分からないけど
「このままじゃ全然駄目だ」「解散だ」と言ってた。
きっと本人たちは前からはっきりと自覚していて
自分に、自分たちに物足りなくなっていて
「こんなんじゃない、まだまだもっと上に行ける」
「でもそれはこの団体で追求できるのか?」
ってことに悩み出しているのではないか。
今回が4回目の公演。
そろそろ次が正念場。勝負のときではないか。
まだまだ飛躍していって「スロウライダー」的な何かを世間に打ち付けて浸透させるか、
奇妙な話をリアルな舞台装置で演じていく劇団として小さくまとまるか。


偉そうな話はさておき。
僕としては見てて面白かった。
前回との大きな違いは小ネタで腹抱えるぐらい笑ったってことかな。
ホラー系の劇団なのに笑えるポイントが随所にあった。


次回の公演がどうなるか期待。
12月らしくて、タイトルが「スロウライダーの死霊伝説」
どこまで本気なのか。

    • -

新宿の DiskUnion 本館の6階(オルタナのフロアが新装開店されていた)に行ったら
なんと Sonic Youth の幻の1枚目を見つける。9800円。
もちろん買った。値段は問題ではない。
上京して以来10何年と探していたものが見つかった。
そんなわけで今日は記念すべき日だ。

    • -

帰り、山手線に乗ってたらミキさんに、
「群像」の締め切りが10月31日で、あれは確か長さは50枚からだったと教えてもらう。
そろそろなんか書くか、という気持ちになる。


書くぞ。