霧の中

朝起きて外に出ると一面霧の中だった。
一晩の間に降り積もって家々が灰色の雪にうっすらと覆われている、そんな感じがした。


駅までの道を歩く。50m先が見えない。
駅前に聳え立つ旧DEC → 旧COMPAQ → 現ヒューレット・パッカードのビル。
その最上階付近が霞の向こうに完全に消えてしまっている。
まるで雲の中のよう。


丸の内線に乗ると四ッ谷駅で地上に出る。
やはりここも霧で覆われている。
百年降り続けた雨に百年の間濡れたまま、漂い、
朽ち果ててゆっくりと溶けてゆくかのような風景。


銀座に着く頃にはだいぶ晴れてきていたが、ビルの上の方は霧の中だった。
有楽町の駅まで歩いて山手線に乗り換え、浜松町に到着する。
いつものように竹芝方面に向かって歩いていく。
ふと振り返ってみると東京タワーが消えてなくなっていた。
こんな光景は初めてだ。

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水の惑星、霧の惑星に住むことを考える。
(と言っても何も思い浮かばない)


あるいは、一年の大半を霧で覆われた村に次々に襲い掛かる殺人事件。
そういうホラーないしはミステリー。
内外問わずたくさんありそうだ。
「霧」というものがどことなく神秘的なのはなぜなんだろう?
視界がぼやけていて薄暗いからだけじゃないよな。


そこに住む人たちは無口で他人に目を合わせようとせず、
常にコートの襟を立てていて顔を隠している。
乗っていた車が故障したかなんかで助けを求めてよそ者がその村に辿り着く。
最初のうちは邪険に扱われるが、
困り果てた挙句親切な(訳ありの)村人の家に一晩の宿を得ることになる。
小さな事件が積み重なることで足止めをくらって
彼(ないしは彼女)はその村から出られなくなる。
やがて、その村に伝わる奇妙な風習(あるいは祭り?)、
あるいは悲しい過去の存在を知る。
・・・というようなやつ。