先週の土曜、神保町の出版社を訪れた際に
いつも行く古本屋にSFの文庫で珍しいのがないか探したら
嬉しいことにというか悲しいことにというか大当たり。
恐らく熱心に買い集めていたファンが何らかの理由で売り払ったものと思われる。
なんというか、むせてしまうぐらいに書棚が濃かった。
嗅覚で本を探しているとしたら、鼻がひん曲がるぐらいだった。
10冊買って2万円。
普通ありえない。とんでもない出費。
ボーナスも近いし、ま、いいかと思って買ってしまった。
僕的にかなりすごいものばかり買ったのでここにリストアップする。
【ハヤカワ文庫】
□トーマス・ディッシュ 「プリズナー」 \800 (SF233) /1969
ディッシュの作品って今だと、映画化もされた絵本ライクなおとぎ話
「いさましいチビのトースター」のシリーズしか売ってないんですよね。
60年代のアンソロジーの翻訳を古本で見つけて読むと
ニューウェーブの旗手ってことでディッシュが入っていることが多く、
いい作品を書く人だとずっと思っていた。
ようやくまとまった作品を入手。
□テッド・ホワイト 「宝石世界へ」 \750 (SF352) /1967
この人はよく知らないのだが、パラレルワールドものだったので買ってしまった。
□ブライアン・W・オールディス 「爆発星雲の伝説」\500 (SF364) /1964
「地球の長い午後」やSFの評論で有名なオールディスの短編集。
スピルバーグが映画化した「A.I.」の原作はこの人。
□イタロ・カルヴィーノ 「柔らかい月」 \1260 (SF436) /1967
大学院時代に「現代文学」を読み漁っていた頃、
イタリアとなると最も言及されていたのがこの人。
ハヤカワのSFに入っているのは非常に珍しい。
(その他の代表作はハヤカワ以外の出版社から出ていて、それらは比較的入手が容易)
イタロ・カルヴィーノという作家と
その得意とするメタフィクションというジャンルの紹介が
まだ日本でもあんまりなされていない時期だったため、
奇妙なSF風作品だということでハヤカワの文庫に入ってしまったのだろう。
目利きの編集者が自分のところで出したかったからかもしれない。
□K・W・ジーター 「グラス・ハンマー」 \550 (SF914) /1985
昔のジーターの作品でまだ持ってなかったもの。
【サンリオSF文庫】
□アントニイ・バージェス 「どこまで行けばお茶の時間」 \2400 /1976
バージェスと言えばキューブリックが映画化した「時計仕掛けのオレンジ」
パラパラめくってみた限りでは
「不思議の国のアリス」の毒々しい部分と
ジェイムズ・ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」の実験−言葉遊び的感覚が
元になっている作品のようだ。
□シオドア・スタージョン 「コスミック・レイプ」 \3200 /1958
短編の名手スタージョンの、題名からもわかる通り問題作というか異色作。
復刊ドットコムにも上がっている。
(サンリオは復刊要望がとても多い)
とっちらかったコミック・オペラ的な内容のようだ。
「アインシュタイン交点」や「ノヴァ」で有名なS・R・ディレイニーが
50ページにも及ぶ序文を寄せている。
日本でも最近「不思議のひと触れ」や「海を失った男」と独自編集の短編集が
新しく出版された。前者を出した河出書房からは別な短編集も出るようだ。
今日本ではちょっとしたスタージョンブームかもしれない。
□フレドリック・ブラウン 「フレドリック・ブラウン 傑作集」 \2750 /1977
「火星人ゴーホーム」などで有名なユーモアあふれるSFを書く名手。
星新一が訳している。
もうずっと星新一読んでないなあ。
中学の時にはもうこればかり読んでたのになあ。
学生時代に逝去のニュースを耳にしても「そうかあ・・・」と思っただけ。
愛蔵版を買ってもう1度読み返してみようかな。
今の僕が読むとSFそのものの作品よりも江戸時代ものの方がしっくり来るかもしれない。
星新一が僕の文章に与えた影響ってとてつもなく多いんだよな。
この本も絶版のままにしないで復刊すればいいのにな。
なお、11月いっぱい yahoo ではアニメ化された「気まぐれロボット」の配信をしている。
□イアン・ワトソン 「マーシャン・インカ」 \4000 /1977
80年代イギリスの重要な作家、イアン・ワトソン。
こういう作品を出していたとは知らなかった。
未読だけど「川の書」「星の書」「存在の書」でどうもあらぬ方向にいっちゃってるらしいのだが。
裏表紙を読むとこんなことが書いてある。
「アンデスの小村アプスキーにソビエトの火星探査機が墜落した。
火星から採取した土が付近にばらまかれ、村人たちは次々に倒れていった。
(中略)
インディオの青年ジュリオとその恋人アンジェリーナは、
偶然難を逃れ、ジグソーパズルのような長い夢のあとで再び目が覚める。
(中略)
言語学や文化人類学、社会学、物理学などの知識を縦横に駆使して、
インディオの神話的世界と現代科学を融合し、(以下略)」
理系の科学だけじゃなくて別な領域の学問も視野に入れているよなSFは絶対面白い。
あー早く読みたい。
80年代の作家による南米を舞台にしたSFでは
ルイス・シャイナーの「うち捨てられし心の都」が秀逸。
□ハリスン&オールディス編 「ベストSF1」 \1900 /1968
1967年のアンソロジー。
ハリソンはハリイ・ハリソンで、オールディスはブライアン・W・オールディス。
収められた作品はと言うと、
(ジェイムズ・ブリッシュが「信条」を、ハリイ・ハリソンが序文を書いている)
ロバート・シルヴァーバーグ 「ホークスビル収容所」
フレッド・ホイル 「恐喝」
キット・リード 「ぶどうの木」
J・G・バラード 「下り坂カーレースにみたてたジョン・フィッツジェラルド・ケネディ暗殺事件」
ブライアン・W・オールディス 「紙宇宙船の騎士たち −−−SFへの回顧的展望」
フリッツ・ライバー 「電話相談」
キース・ローマー 「最後の指令」
シルヴァーバーグの「ホークスビル収容所」は別のアンソロジーでも読んだことあるけど、
なかなかの力作だった。
□ラングドン・ジョーンズ編 「新しいSF」 \3500 /1969
ニューウェーブを扱ったアンソロジー。
時代も近くイギリスで編まれたせいか、どちらにもバラードとオールディスが入っている。
マイクル・ムアコック 「北京交点」「トマス・トンピオンに」※序文も
ブライアン・W・オールディス 「プラハを遠く離れて」
トーマス・M・ディッシュ 「五点形」
チャールズ・プラット 「方向」
J・G・バラードとジョージ・マクベスによる対談 「新しいサイエンス・フィクション」
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他にも買いたかったものがあったんだけど、
さすがに買いすぎだとなくなく諦める。
ちくま文庫から出ていたP・K・ディックの短編集2冊や、
SFじゃないけどサキの短編集2冊組みとか。
SFの好きな人が古本屋でサンリオの文庫を探すようになったらもうおしまい。
抜け出せなくなる。
僕はもう抜け出せなくなった。コレクターの仲間入り。
読む時間が圧倒的に足りなくて、一冊何千円もする古びた文庫が部屋の片隅に積まれたまま。