「エターナル・サンシャイン」

昨日に引き続き、映画部の第1回鑑賞会で見た「エターナル・サンシャイン」を。

これは多くの人が見るべき作品だと思う。
映画に詳しい人も、そうでない人も。独り者もカップルも。
あらゆる若者が今見ておくべき映画ではないか。


喧嘩別れした恋人(ケイト・ウィンストレット)に
自分の記憶を消去されてしまった主人公(ジム・キャリー)が
逆ギレしてじゃあ自分も消すかと記憶除去サービスの会社にて手術を受けるのであるが、
その手術の過程で2人にまつわる過去の記憶を遡っていったところ
古い記憶になればなるほど付き合い始めた頃のキラキラした思い出となるものであって
主人公は「消すのはやめてくれ!」と叫ぶようになり、記憶の中の恋人を連れまわって
自分の頭の中で逃走劇を繰り広げるという藤子・F・不二雄的SFラブストーリー。
その一方で記憶除去サービスの会社のしょうもない社員たちが繰り広げる
脱力系のエピソードが絡み合って、物語は予想外の展開を迎える。


まさに「予想外の展開」
今作でアカデミー賞脚本賞を(ようやく)手にした天才チャーリー・カウフマンによる
奇想天外なお話は先が読めるようでいて「そう来るか!」と唸らされることばかり。
二転三転するんだけど90年代のハリウッドにあったような
これ見よがしなどんでん返しではなく、さらっとしていて必然性がある。
トリックじゃなくて、どちらかといえば魔法。
「マルコビッチの穴」を見たときにはあざとくてやりすぎな感じがしたんだけど、
エターナル・サンシャイン」の完成度はとんでもなかった。


同じぐらい天才なのが監督のミシェル・ゴンドリーなんだろうな。
初監督作「ヒューマンネイチュア」もチャーリー・カウフマンの脚本であって
残念ながら僕はまだそっちの方は見ていない(ゴールデンウィークに是非とも借りて見なければ)。
なので監督としてどれぐらいの飛躍があったのかわからんのだけど
今作はビョークのビデオクリップで一躍有名となった奇抜な映像の集大成って感じで、
だけどそういうのの寄せ集めではなくて、
そこから一歩高いところに上って新しい地平に立ったかのような清々しさがあった。
「記憶を消されていく」過程を表現する鮮烈な映像を見ているだけでも十分に楽しい。
カラフルでポップ、ゴージャスでところどころローテク。
最近のハリウッドならCGで、お金はかけるがお手軽に済ませるところを
ちゃんと実写で撮ってるっぽいのが見てて嬉しい。
子供のときの記憶に逃げていくとキッチンに辿り着くのであるが、
ジム・キャリーの背丈よりも何もかもが大きい。
これって合成じゃなくてどうもわざわざそういうセットを作ったようだ。
ケイト・ウィンストレットと流しをお風呂にしてポチャポチャと漂う部分は
プログラムを読んだら実際にそういう巨大な流しを作ったと書いてあった。
2人が初めて出会った日に過ごした思い出の家が少しずつ消えていく場面では
実際に家を壊していた。


こういうのってローテクだといいってもんではなくて
本物のセンスと結びついてないとちっともうまくいかない。
ポスターにも使われていた
凍りついたような海辺に2人が家庭用のベッドで寝そべっている光景。
これってただ単にベッドを持ち込んで置いただけ。
でもこういうことってなかなかできない。
しかもそれをスタイリッシュに描くことはさらに難しい。


ニューヨークの街並みをサーカスの象がパレードをするシーンって
サーカスが来た時に居合わせてそのまんま撮っただけなんだろうけど
なんだか魔法がかかっているかのようだった。
こういう魔法を引き起こせる力を持ってると、監督として本物だ。


奇抜な脚本も妙にセンスのいい映像と結びつくことで良質な作品となり、
「新しい」という評価を得る。
今後こういう作品が増えていくんだろうな。いいことだと思う。
金をかける部分が変わってくる。
何よりも大事なのはアイデアということになる。


映像と脚本が主役の映画のようでいて
何気にきちっと役者の演技もいい。
ケイト・ウィンストレットもいいのだが、ジム・キャリーだよな。
この人うまいんだけどなあ。
うますぎて物真似に見えてしまうのが玉に傷。
どの映画を見ても器用貧乏という言葉を思い出す。
それに今回ブラッド・ピットばりの無精髭を生やしていてセクシーにすら見えるのに
「マスク」やその他の若い頃の顔芸がどうしてもちらついてしまう。
本格的な演技派への道のりはなぜかどうしても遠い。


スパイダーマン」シリーズのキルスティン・ダンスト
ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイライジャ・ウッドも主要登場人物として出てくる。
だけどスター然とした無駄な輝きは一切無しに撮られている。
この辺りは最近話題の若手監督には共通して見られる要素。
いい役者を使う。だけど媚びない。あくまで自然に撮る。


以上、ダラダラと書いてきたけどこれはとてもいい映画です。
サイドウェイ」「エターナル・サンシャイン」と
アメリカの秀逸な映画が続々と日本に入ってきて映画ファンとしては嬉しい限りです。

    • -

それにしても自分は冬の海フェチだということに気付かされた。
冬の海+ラブストーリーというだけでオールOKになってしまうのではないか。
冬の海+父と息子の物語というのも可。


エターナル・サンシャイン」は冬の海の寒々しい風景が妙に美しい映画だった。