「コーヒー&シガレッツ」


日曜、会社に作った映画部の初めての公式行事として映画鑑賞会を開催する。
映画部も本来ならば映画をつくるのを目的としたクラブなのであるが、
映画をつくるってのはなかなかそう簡単には立ち上がらないものであって。
まあ今後の活動方針としては映画をキーワードに会社員生活を楽しく過ごせればいいのではないかと。
ゆるーくゆるーく転がっていければそれでよし。


見に行ったのはジム・ジャームッシュ監督の最新作「コーヒー&シガレッツ」と
最近話題の俊英フィリップ・カウフマンがアカデミー脚本賞を獲得した「エターナル・サンシャイン
この2本。どちらも選択としては僕のカラーが強い。


土曜の夜は結局井の頭公園で3時ごろまでウダウダしていて睡眠時間は5時間ちょっと。
「ああ、これは寝てしまうんだろうなあ」と思っていたら
案の定どちらを見てるときにもウトウトと眠り込んでしまった。

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コーヒー&シガレッツ」は短編のオムニバス。
茶店やどっかの休憩室で1人か2人の客と、場合によってはウエイターが出てきて
不思議な密度の時間を過ごすというのがどの作品にも共通する枠組。
もちろん重要な小道具として出てくるのがコーヒーと煙草。
光と影というよりは白と黒を描いたモノクロの映像。
ほんとは自己主張が激しいはずなのに、どこか一歩引いたところから流れてくる音楽。
ジャームッシュ節は相変わらず。
好きな人はもうこれだけで十分うっとりとした時間を過ごせるだろう。


11本の短編のそれぞれの登場人物とその組み合わせがまたすごくて、例えば
スパイク・リーの妹と弟であるジョイ・リーとサンキ・リーが客に扮して、
 スティーヴ・ブシェミがウェイター
イギー・ポップトム・ウェイツ
ケイト・ブランシェット一人二役
The White Stripes のジャック・ホワイトとメグ・ホワイト
 (結局この2人は兄弟でもなんでもないんでしょ?)
ウータン・クランの GZA と RAZ の客に対して、ビル・マーレーがウェイター
などなど。通好みではロベルト・ベニーニスティーヴ・クーガン(「24 Hour Party People」)、
ルフレッド・モリーナ(「スパイダーマン2」)といった名前にひっかかるか。
なんだか小粒に豪華。
僕なんかだとこういうキャスティングだけで非常に興味深く面白く見られるんだけど、
この手のことに疎い人が見たらこの面白さ半減するんだろうな。
「知らなくても見れる」というほどサービス精神溢れる作品ではない。
The White Stripes を知ってるからこそ、
テスラ・コイルの実験を大まじめに繰り広げてその失敗について語ることの
じわっと来る奇妙さが伝わってくる。
これをアメリカのその辺の男女と思って見ていたら今ひとつ盛り上げらない。
ただただおかしなことをしている人たちの風景で終わってしまう。


イギー・ポップトム・ウェイツにしてもそう。
これがどこかの無名の人たちがやっていたらちっとも笑えないだろう。
あくまでイギー・ポップトム・ウェイツという一見ありえない組み合わせだからこそ、
そして両者のキャラクターの持ち味があってこそ、成り立ってるものなのである。
じゃあ、この2人を捕まえてきてカメラの前のソファーに座らして
コーヒーと煙草を置いて即興で10分間喋らせたら
誰が撮っても面白くなるかと言ったら必ずしもそうはならない。
ジャームッシュが手がけたからこそ、作品として1つのまとまりを見せたのではないか。
こういうのは素人が撮ろうとしてなかなか撮れるものではない。


僕みたいに映画を撮ったことのある人が見ると
このコーヒーと煙草だけの地味な作品には学ぶところがたくさんある。
登場人物が2人だけで、最小限の小道具でどこまで間を持たせられるか。
しかも何の事件が起こることもなく、ただただダラダラ話しているだけ。
例えば構図をどうするか。
Aが話しているときには近付いてAだけを映して、Bが話しているときにはBだけを映して、
という1人ずつの構図にするか。それとも引いたところから2人を撮るか。
音楽はどのタイミングで途切れて、どのタイミングで再び鳴り始めるか。
立ち上がってその場を出て行く(画面から消える)という行為は
個別のシーンでどのような意味を持つか。
・・・まるで教科書のようだ。
「よくできてる」と思う。


見た目は薄味。
最初の方のは「うーん」と首を傾げたくなるような感じだったのが
後半に向かうに連れてしっくり来るようになる。
ケイト・ブランシェットのところから尻上がりに面白くなっていって、
最後から2つ目、ウータン・クランビル・マーレー
ボタンの掛け違った面白さはそのピークに達する。
そして最後の、ビル・ライスとテイラー・ミードの老優2人がゆったりと過ごす時間の中で
「コーヒーと煙草のある空間」はなにやら哲学的な終焉を迎える。
芳醇な余韻を残す。


でもまあ結局は
ジム・ジャームッシュのファンで監督作を何本も見ている人
*登場人物の半数以上を知っていて、それだけで「見たい」と思った人
*映画製作を志したけど、アマチュアのままの人
これらの人が見るべきであって、
雑誌で「おしゃれな映画」だと紹介されていたということで
何も知らずにカップルで見に行ったらかなり肩透かし。


映画を見るという行為はいつだって大変難しいものである。