実験動物としての人類の末裔

例えば、こういうことを考える。


純粋に地球上の生物として進化を遂げたのは男性(女性)だけで、
女性(男性)という存在は実は宇宙人によって与えられたものなのではないか。


地球上に生命が生まれる。単細胞生物のごく原始的なもの。
どこからかやってきた宇宙人たちが観察を始める。
それが今でも続いている。何十億年も。
時々彼等は手を加える。
単性生殖だった生き物については「相手」を与えて有性生殖にする。
そうすることでさらに進化させる。
無理やり雄/雌を区分しているようなものなので
どちらかは地球上で生き残るにはもろい生き物となる。
なので宇宙人たちはその片側については
自分たちで操作した遺伝子を持たせることで強化させる。


そんなわけで、話をはしょるが、男女間は分かり合えない。分かち合えない。
同性に対して持つような連帯意識を異性に対しては持ちえない。基本、生物学的に。
両者の間で精神的な結びつきを見出すことも理論的には可能であるが、結局のところわかりあえない。
そしてそれゆえに両者は惹かれあう。
自分がもって生まれた、その社会の中ではぐくまれた行動原理では解せないぐらい
不可解な存在であるがゆえに、惹きつけられる。
時として理性というものをかなぐり捨ててでも求める。求め合う。


・・・ということも実は宇宙人たちは計算に入れていたとしたら。
男女ものすごくぴったり合いすぎているならば肉体的・精神的な反応の起伏は皆無となり、
例えば生殖という行為は非常に味気ないものとなる。
周期的にその時期が来たので始まって終わりましたというような。5分もかかりません、というような。
「そこに至るまでの長いプロセス」と
「その行為における様々なヴァリエーション(雑多なイマジネーションに基づく)」と
「それが終わった後のアフターフォロー」と、
単純に始まって終わることを良しとしない何か気まずいものを人は宿命的に抱えていて、
僕らはいつのまにかそいつを、その摩擦全般を、「文化」と呼ぶようになっている。
セックスという行為は一方では儀式・祭礼と結びつくことで高尚な行為へと昇華を遂げ、
一方ではみもふたもないゴシップとして流布される。
そういうことの全てが宇宙人たちのプログラム/プロジェクトに基づいたものだとしたら。


宇宙人の大学生が宇宙船に乗って地球を訪問し、
夏休みのレポートの一環として無作為抽出した個体をサンプルとして実験を始める。
「えーい、こいつとこいつをくっつけてしまえ」と
手にした銃のようなものからピンク色のビームが発射され、
撃たれた男女が何の理由もなく突然恋に落ちる。
そしてそれを昔から人は「運命の赤い糸がつながっている」と呼んできた。
その姿を垣間見ることのできた人たちが彼等のことを「キューピット」と呼ぶようになっていた。
もしもそういうものだったとしたら。


・・・そんなわけで僕は恋なんてしない。
だってそれは宇宙人たちに屈することになるから。