フォーガットン

昨日の日曜日は映画部第3回目の鑑賞会ということで「フォーガットン」「ミリオンダラー・ベイビー」を見に行った。
場所はお台場のシネマ・メディアージュ。集まったのは合計9名で割と盛況。

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フォーガットン


ジュリアン・ムーア主演。
1年前に愛する息子を飛行機事故で亡くした母親。
ある日突然形見の写真からその息子の姿が次々に消えていき、
夫や近所の人たちからも息子の記憶が消えてしまう。
主人公は同じく事故で娘を失ったアル中の男性と共に真相の解明に当たる。
・・・というような出だしでなかなかいい感じのサスペンスかと思いきや、
中盤からエンディングにかけて衝撃の展開を迎える。
「衝撃」としか言いようがない。
内容そのものも衝撃的であるが、
よくもまあこの展開を映画化したものだということの方がさらに衝撃的。
脚本家がストーリーの展開を考えていていくつかの方向性をリストアップしたときに
最もありえない路線をわざわざ選択したというか。
正気の沙汰とは思えない。感心させられた。


「ネタばれ」的なことは書きたくないんだけど、この際いいだろう。
これから見に行くつもりだという人は読まないでください。
(というかそういう人がもし仮にいるとしたら、
 そのためのお金と時間をもっと有意義なものに使ってくださいと言いたい)


普通、周りの人たちから記憶が消えていくというとき、
1.主人公の心の病
2.なんらかの事情により、周りの人たちが主人公に真相を隠している
3.国家的な陰謀


※「エターナル・サンシャイン」のようにSF的装置を利用、というケースもある。


ここまではよくある話で、何の違和感もなく受け入れることが可能であるが、


4.宇宙人の人体実験でした。アハハ


こんなことを何の臆面もなくぶつけられると
怒りを通り越して唖然とし、むしろ爽快な気分にすらなってしまう。アハハハハ。
この手の映画は
・なぜ周りの人たちから記憶を消さなくてはならなかったのか
・どのようにしてそれがなされたのか
という理由と手法について手の込んだ過程を経て描いていくことに
映画としての醍醐味があるものであるが、そういうの全て放棄してんだもんな。
「宇宙人がやってました」の一言で(しかもセリフだけで)片付けておしまい。
こんなのが全米ナンバーワンになったというのを聞くと、大変頭が痛い。
(というか何のナンバーワンなのだろう?最近たくさんありすぎてわからない)


ラストシーンについても書く。
「実験は失敗だ」ということで息子が帰ってきてハッピーエンドなのはいいんだろうけど、
宇宙人が地球人を使って好き勝手にいろんな実験をやってて
アメリカの国防総省国家安全保障局も公認だという事実はいったいどう落とし前をつけるのだろう。
ジュリアン・ムーアに息子が帰って来さえすればもうそれでよしなのだろうか。
僕ならせめて、そのハッピーエンドの陰にも宇宙人の姿を紛れ込ますけどね。
一見幸福そうに見えても、それは危ういバランスの上に成り立っているものなのだ、
ということを示唆するために。


要するに何もかもが納得いかない。


・・・納得いかなすぎて、むしろ痛快。
宇宙人に「消される」方法ってのもとんでもないやり方だったし。
(ここは見るに値する場面なので、書きません)


みんなで見てよかったと思う。
昨日はその後ずっと話題になって、「ミリオンダラー・ベイビー」どころじゃなかった。
昼を食べている間も、夜飲んでいるときもあれこれ突っ込みまくり。
ある意味とても「映画を楽しむ」ことができた。
でも、わざわざ会社休んで見に行ってこれだったら普通激怒だな。


それにしてもよくもまあジュリアン・ムーア
こんなトホホ系というかトンデモ系の作品に出たもんだよな。
今後のキャリアにおいて黙殺されるのではないか。
あるいは、「フォーガットン」を最後に干されてしまうのではないか。
なのになぜか最近の映画の中ではダントツにいい演技してんだよな。
ハンニバル」のクラリス捜査官は
羊たちの沈黙」のジョディ・フォスターと比較すると余りにもさえなかったし、
めぐりあう時間たち」もメリル・ストリープ、二コール・キッドマンと
豪華3大女優競演ということになっていたけど、
2人に比べるとやはり演技としても存在感としても見劣りするし。
(今、パンフレットを見ていたら「ブギーナイツ」や「ショートカッツ」にも
 出ていることが分かったが、全然印象がない。思い出せない。
ビッグ・リボウスキ」に「マグノリア」に「クッキー・フォーチュン」などなど
 僕は出演作の大半を見ているようだが・・・)


ジュリアン・ムーアのファンだという人にとっては
今後この「フォーガットン」はどういう扱いになるのだろう?
代表作と呼ぶわけには行かないよな・・・。
トッド・ヘインズ監督の「SAFE」という作品を昔たまたま見たことがあるんだけど、
この作品でのジュリアン・ムーアはとてもよかった。
郊外の裕福な家で何不自由ない暮らしをしていた主人公は
原因不明の奇病にかかって直る見込みはなく、宗教がかったコミューンで暮らし始める、という話。


フォーガットン」は最初にどういう映画か全て聞かされた上で、
それでも見たいという人が見るべきものだという。
とにかく突っ込みたい、腹を抱えて笑いたい、とか、ジュリアン・ムーアの出演作は全て見てるとか。
「どんでん返しを期待」という人は絶対見に行かない方がいい。
舞台構造がそもそも狂ってる。

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フォーガットン」を見終わる頃シネマ・メディアージュでは、
交渉人 真下正義」の舞台挨拶ということで
ユースケ・サンタマリアが来ていたらしい。
こっちを見ればよかった。