壁を塗る

同期の友人が新しい家に移るってんで、今、借りた家のリフォームを行っている。
以前会って飲んでたときに
週末はいろんな人に手伝ってもらって壁にペンキ塗ってるって話になって、
僕もやってみたくなる。「次やるときは僕もー」と名乗りを挙げる。
その後しばらくして、先週の頭だったかな、
「今度の土曜壁を塗るけど来る?」ってメールが届いて
「いいねー。やるやる!」とウキウキな気持ちになる。
このところ毎週土曜は出社してたけど、この週末だけは仕事そっちのけで壁塗り。


駅に集合して、新居へ。
元々はモデルルーム、その後いろんな借り手を経て
事務所になったり店になったりしたらしい。
なので1階も2階も広い部屋がそれぞれ1つずつあるだけ。
仕切りがないと、2階なんて合宿所か地方の居酒屋の座敷のよう。
引っ越してきて本格的に荷物を展開したら全然感じが変わってしまうんだろうなー。
なんにせよ広い部屋に住むってのはいいことだと思う。


2階の壁や階段の上半分は既に終わっていて、
この日塗ったのは階段の下半分と1階のキッチンの周り。
四角い桶の中に珪藻土を元にした、粉のままの白い塗料を入れて、
水を加えてひたすらこねる。ダマにならないよう気をつけて。
ほどよく絡まりあうと、さらに粉と水を足していく。
時間が経過すると徐々に固さというか粘り気が出てくる。
うどんをこねる作業もこういう感じなんだろうな、と思う。


食器棚の棚板をリサイクルして、出来上がった塗料を乗せる板にする。
これを左手に持って、右手にはヘラみたいなのを持ってひたすら壁に塗っていく。
上京して以来ホームセンターだのDIYだのに無縁な生活を送ってきた僕としては
こういうのの1つ1つが新鮮だ。
たまにやる分にはなかなか面白いと思う。気分転換として。
日曜大工をする人の気持ちが、ほんの少しだけだけど分かったような気がした。


レッチリのベストを聞きながら壁を塗っていく。
こういう作業をするとき、レッチリってほんとよく似合う。
「壁塗るぞ!」「さあやるぞ!」って気分になるもんね。偉大なバンドだ。
この日3人でやってて、音楽流しつつ、ひたすら与太話。
この頃のレッチリのクリップってさー、みたいな。


最初のうちはそんなだったのが後になってくると
だんだん本気ではまりだして誰も何も言わなくなる。真剣になる。
話す内容も「後ろ通るよ」とかそれぐらいになる。
いや、ほんと、これはのめりこむ。
「壁と塗料とコテ。そして俺」
この世界に存在するのはこの4つだけなんじゃないか?って気持ちになってくる。
いや、気持ちすら存在しない。
限りなく「無」に近づいていく。


何の邪念もなく無心となって塗っていた瞬間が何度かあった。
だからと言ってうまく塗れたかというとそんなことはなく。
初めてだから何もかもが難しい。
「俺って天才じゃね?」といきなり才能に目覚めるってこともなし。
コテで引いた線がそのまま残ったり、
塗料がダマになった部分がそのまま壁にデコボコとして残ったり。
力を込めて一息に塗りきってしまうのが適切な場合と、
力を加えずにそーっと上塗りした方がいい場合と。
あれこれ力の使い分けを覚えた頃にはその日予定した壁は終了。
午後1で集まって、気がついたら夕方になっていた。
自分が塗った壁に改めて向かい合ってみると、
「うーむ。いかんなー」と首を傾げたくなってくる。
ほんともう、あちゃーって感じですよ。


後片付け。
近くの公園の水飲み場で桶を洗う。塗料の落ちた床を雑巾で拭く。
余った塗料はサランラップで包む。こうすると乾燥せずにまた使えるのだという。


その後駅のほうまで歩いて行って、4人で遅くまで飲んだ。
牛タンの店があって、鴨鍋や牛タンしゃぶしゃぶなどを食す。うまかった。
食べながらも「この壁って2度塗りしてるよね」なんて言ってみたり、
にわか壁職人となってあれこれ批評する。
こういうリフォーム作業を始めてみると、ハンズに行く楽しさが違うと友人は語る。


壁を塗るという作業1つとっても性格がすぐに出てきて、
仕事と重なり合う部分も多く。
何を持ってその工程を仕上げたとするか?
どこまでこだわるか?どこで妥協するか?
面白いもんである。
機会があったらまたやってみたい。