頭の中で聞こえる音楽、その13の断章

1)あれだけCDを買いまくって音楽を聴く僕がiPodの類を持っていないのは、
  最先端のテクノロジーに対する興味の無さもさることながら、
  頭の中で絶えず音楽が鳴ってるからなのだと思う。


2)絶えずって言うと言い過ぎだな。もちろん、鳴ってないことも多い。
  頭の中、無音。思考、言葉の群れだけが通り過ぎていく。
  そんな時間の方がむしろ多いか。


3)リアル、とまではいかなくとも、ある程度事細かに心のどこかで鳴り響いている。
  歩いていると、BGMのようにその時々で気になっている曲が流れる。デフォルメされてループする。
  それがあったらiPodいらんっちゃいらんですね。


4)他の人の頭の中で、音楽はどんなふうに鳴り響いているのだろう?
  もっと精緻に音が再現されている人もいれば、
  心の中に音楽を思い描けない人だっているだろう。


5)この、聞こえている音楽って何なのか?
  もちろん、記憶ってことになる。シナプスとかニューロンの結合。(詳しいことよく知らず)
  僕の脳のどこかに、今再現されている「ワルキューレの騎行」がストアされている領域がある。


6)領域について。音楽は音楽同士で固まっているはずだ。
  だとしたら、「ワルキューレの騎行」の隣にはいったい何が?ストーンズの「ダイスを転がせ」?
  まさか脳の中でアイウエオ順のわけがなく。


7)僕がその音楽に出会った順なのか、何らかの思い出と結びついているのか。
  よく思い出す順に脳の中をシャッフルされているのか。
  そもそも、僕はどんなふうにして心の中でその音を聴くのか?


8)その記憶領域を刺激する仕方を工夫したら、もっと鮮明に音が聞こえ、
  ゆがんだりはしょったりすることなく曲が完璧にプレイされる、というならば。
  そのときには本当にiPodがいらなくなるかもしれない。記憶領域プレイヤー。


9)それって映像だってそうだ。
  2時間の映画を見た記憶がそのまま、2時間の映画として脳内スクリーンに広がる。
  機器に接続された特殊なアイマスクをして、僕はカウチに横になる。


10)いや、これまでに見聞きしたことだってそうだ。
  記憶の全てを再現可能とする技術がきっと生まれるだろう。
  というか、大っぴらにされないだけで、即にあるのかもしれない。


11)だとしたらそのとき、探したい記憶だけを見つけ出すにはどういう仕組みになるのだろう?
  頭の中のインデックスをどんなふうに辿っていくのだろう?
  その配列を世の中に生かしたら、画期的なディレクトリサービスを提供できる?


12)思い出したくも無い出来事が浮かび上がることもあれば、
  ダラダラとどうでもいいことばかりが垂れ流されることもあるだろう。
  神懸り的な職人が華麗なる手さばきで依頼者の美しいメモリーだけを選び出す。


13)そこまで来たならば、記憶を編集・捏造することだって可能となるだろう。
  さらに、記憶を溜め込む側の生物学的器官の培養だって可能となるだろう。
  人類の記憶は、全て、1つに統合されるだろう。