「パイレーツ・ロック」

金曜に会社サボって見に行った2本について。
どっちもロック・ミュージックの素晴らしさを語ったもの。

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パイレーツ・ロック
http://www.pirates-rock.jp/


フォー・ウェディング」「ノッティングヒルの恋人」の脚本を手掛け、
ラブ・アクチュアリー」で監督でビューを果たしたリチャード・カーティスの最新作。
このラインナップからも分かる通り、英ワーキング・タイトル系の人。
(ここの映画、ハズレがないよね。でも、正面切って論じられてるの見たことがない)


ラブ・アクチュアリー」はたまたま劇場で見たんだけど、なかなかいい映画だった。
9組のカップル、カップル未満の男女が同時並行で繰り広げるクリスマスのドタバタ。
とはいえワーキング・タイトルなのでスタイリッシュ。
美しく描かれたハッピーエンドで終わる。
「God Only Knows」が流れたクライマックスはよかったねえ。


その監督が1966年・1967年を舞台に
海賊ラジオ局のDJたちをテーマにした作品を作ったのだから
これは見にいかなきゃ、と思った。


当時のイギリスは公式のラジオ局はBBCしかなく、
そのBBCが1日にかけてよいとされる「ポップミュージック」は法律の規制によりなんと45分!
当たり障りないクラシックやミュージカルやイージーリスニングが流れていたんだろうね。
当時、1966年・1967年と言えばビートルズだったら「Revolver」から「Sgt. Peppers」に至るように
英国ロックの最盛期じゃないですか。
それがラジオで聞けないっていうんだから時代錯誤もはなはだしいよね。
1964年だったか「ビートルズは英国一の輸出品」と呼ばれて、
その後英国女王からは勲章までもらったというのに。


そんなわけで、英国本土から3マイル離れたら法規制の対象外となるというのを逆手にとって、
船の上から放送を行う海賊ラジオ局が増えたのだとか。
1963年開局の「Radio Calorine」が有名。
1日中朝も昼も夜もロックを流し続けて、若者たちはラジオにかじりついた。


なおBBCに関してはもう1つ不思議な規制があって、
それはレコードをかけてよい時間が週に34時間までしか認められないというもの。
労働組合側の圧力によるものらしいけど。
結果、スタジオでの生演奏が、放送される音楽の中心となる。
ラジオ番組に登場するロック・グループはその都度生演奏をする。
これが何を生むかというと、放送局でのスタジオライブの音源が後年発売されるわけで、
ビートルズを初め「Live at BBC」というアルバムが世の中に多いのはそのせい。
その筋では有名な「The John Peel Sessions」のシリーズもその流れ。
僕も最初は、何でイギリスのパンク・ニューウェーブ系のグループがことごとく
「The John Peel Sessions」って名前の
4曲入りや8曲入り、12曲入りのCDを出しているのかよく分からなかった。
1回の番組が確か15分で、だいたい3曲か4曲を演奏することになる。
このジョン・ピールも海賊ラジオ局出身。


さて、前置きが長くなったけれども「パイレーツ・ロック」が描いたのは、その海賊ラジオの日々。
船の上でコミューン的な生活を繰り広げる名物DJたち。
あのフィリップ・シーモア・ホフマン
アメリカ出身の「伯爵(ザ・カウント)」を演じて全体を引っ張る。
言われなきゃ気付かないぐらい、ぴったりはまっててなかなかいい。
あと、その伯爵のライバル、アメリカ帰りの伝説のDJギャヴィン(リス・エヴァンス)が
マイクに向かった途端何をするにもエロくなるってのがいいね。


映画は、これらDJたちのてんやわんやなエピソードが愉快な調子で、だけどとりとめもなく続く。
(例 ラジオ史上初めてFワード、つまりFUCKを電波に乗せて喋る)
ここが評価の分かれ目で、僕自身はこの作品、映画として全く評価する気になれない。
海賊ラジオ局をつぶそうとする英国政府との戦いに敗れて船が沈没する経緯が
ストーリーの幹としてあるっちゃあるんだけど、全般的に散漫なんだよね。
個々のエピソードが長すぎる。
引っ張りすぎるので本筋に関係するのかと思いきや、何もなかったり。
ミュージック・ビデオと短編コメディの寄せ集め的。
ラブ・アクチュアリー」から大きく後退した。


でも、僕みたいなロック好きだと大きな音で
当時のヒット曲、ラジオから流れていたヒット曲が流れるというだけでもとても嬉しいものであって。
オープニングが The Kinks 「All Day and All of the Night」ってのが悔しいぐらいにいいよね。
伝説のDJギャヴィンが登場する場面では The Rolling Stones 「Jumpin' Jack Flash」ってのも
定番っちゃあ定番だけど、ニクイ。
船が沈み行くときにサヨナラの曲として流すのが Procol Haum 「青い影(A Whiter Shade of Pale)」


その他にも
Them Featuring Van Morrison 「Here Comes the Night」
Donovan 「Sunshine Superman」
The Boxtops 「The Letter」
Leonard Cohen 「So Long Marianne」
The Turtles 「Elenore」
Dusty Springfield「この胸のときめきを(You Don't Have To Say You Love Me)」
など。選曲がとてもいい。さすがイギリス映画。
このサントラは買いだね。


やはり英国ロックが最もキラキラ輝いていたのは1966年、1967年だったのだ。
そしてそれは違法なラジオでないと聞けないという背徳感が裏打ちするものでもあったのだろう。
こんな時代、これから先ありえない。