「アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜」

引き続き、「アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜」
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80年代メタルの先駆的存在でありながら商業的成功を得られず、シーンから消えたバンド「Anvil」
(スティーブン・スピールバーグ「ターミナル」の脚本を手掛けた)監督のサーシャ・ガバシは
今から25年前、高校生だった時にこの Anvil のツアーに同行してカナダを回ったことがあった。
そういえば Anvil はどうしているだろう?と20年ぶりに連絡を取ってみたら
なんと、彼らはまだ現役で活動を続けていた・・・
サーシャ・ガバシはビデオカメラを手に彼らの元へと赴き、彼らの日々を撮影。
これがサンダンス映画祭で上映されるや大評判、
ワールド・プレミアではダスティン・ホフマンキアヌ・リーブスによる大絶賛となった。
そして遂に日本上陸。


今や思いもかけぬルートで再評価を受けることになった(と思いたい) Anvil。
見終わって、「よかったなあ」と心の底から思った。
意外な形だけど、報われたじゃないか。みんなが拍手を送ってくれたじゃないか。
僕も心の中で一人、拍手を送った。感慨深かった。


50歳を過ぎた今、ギターとボーカルの「リップス」は
小学校に給食を運ぶパートタイムの仕事に就き、妻もファーストフードかどっかで働いている。
小さなライブハウスで古くからの熱狂的なファン(のおっさんたち)数人を前に演奏するところから映画は始まる。
ひょんなことからヨーロッパ・ツアーを行うことになるが、
会場に着いても客がいない、ギャラが支払われない、列車に乗り遅れる、駅で寝る、そんなのばっかり。
挙句の果て、ツアー・マネージャーの女性とギタリストができちゃって、その後脱退。
評論家町山智浩氏も書いてるけど、
伝説の名作(迷作)「スパイナル・タップ」を地で行くようなエピソードばかり。
スパイナル・タップ」はフィクションだけど、これを現実に行うとなると泣ける。
個人的に思うところとしては、ミッキー・ローク主演の「レスラー」に似ている。
映画の出来はフィクションの「レスラー」の方が断然いい。
でも、どっちが泣けるかと言えば「アンヴィル!」だなあ。


評価の高い1982年の2作目「Metal On Metal」を録ったときのプロデューサーにデモテープを送ったところ、
いい感触が得られてアルバムを録音することになるも、その製作費用200万円がない。
メンバーは家のローンを組み替えることを考える。
でも、組み替えたところで家のローンも製作費用も払える当てがない。
(それ以前にベーシストはそもそも住む場所がなくて、荷物を置く倉庫を借りてるだけ)
リップスは熱狂的なファンのおっさんの一人が経営する電話営業の店で働き始めるが、3日間で1件も売れない。
見るに見かねて、リップスの姉が製作費用を肩代わりすることになる。
これまで何十年と頑張って続けてきたのだし、才能が報われてほしいと。
(この辺から、見てて涙腺が緩みだす)


イギリスに渡る。プロデューサーの家に寝泊りしてレコーディングを続けるのだが、
長年連れ添ったドラマー、ロブ・ライナーと大喧嘩。
ロブはその昔、オジー・オズボーンのドラマーに誘われる(!)が、Anvil を裏切れないと断ったという過去がある。
リップスとロブは高校からの仲間、他のメンバーが抜けていく中で2人で Anvil を続けてきた。
そのロブに対してリップスはひどいことを言う。バンドを出て行けとまで言い放つ。
しかし、その夜、リップはロブに悪かったと仲直りを持ちかける。しかしロブはそう簡単には許そうとしない。
リップスは「俺にはお前しかいないんだよ!」「俺のことを分かってくれるのはお前しかいないんだよ!!」と
涙に鼻水を流しながら詫びる。
僕の隣に座っていた、彼氏について見に来たと思われる女の子が
この場面でハンカチを顔に当ててグシュグシュになりながら、号泣。


せっかくできた自信作「This Is Thirteen」をレコード会社に持っていっても、時代遅れとけんもほろろ
ファンに通信販売で売ろうかと考える。
そんなとき、アルバムを聞いた日本のイベンターから「Loud Park」への出演依頼が。第1回の2006年。
先のヨーロッパ・ツアーのルーマニアのイベントでは何千人も収容の会場で客が147人ということもあった。
ここ日本でも、そうなるんじゃないか。
リップスもロブも不安になる。しかも、出演順は昼間の1番目だった。
ステージに上る。
蓋を開けると、なんと、会場の幕張メッセのコートを埋め尽くす日本の若いファンたちが待っていた。
皆楽しそうにヘッドバンギング。そして「Metal On Metal」を大合唱。


今度は僕が泣く番だった。涙が止まらなかった。
今思い出しても涙が出そうになる。
辛くて苦しかったことばかりのバンドを続けてきた中で、最高の瞬間だっただろう。
それを目の当たりすることができて、心が洗われた。
僕自身が救われたように思った。
商業的な成功とは直接の結びつきはないかもしれない。
だけど、ささやかながらも「報われた」瞬間ではあった。
何かを志した人がそういう瞬間に出会えることってそうそうないはずだ。
多くの人が諦めずに続けてみるものの、何も起きずに、諦めて去っていく。


ま、そんな映画ですわ。
帰りに物販のコーナーを覗いて見たら「This Is Thirteen」の日本盤が並んでいて、
割と売れているようで、よかったなあと思った。
僕も家に帰って「Metal On Metal」をオーダーした。カンパの気持ちをこめて。
あそこまでどっぷりとメタル一本槍だと僕も普段、よう聞かんですが。


いやー、その後の Anvil がどうなっていくか気になる。
誰か半年後、一年後の Anvil をレポートしてくれないものだろうか。
お姉さんに製作費用を返済できたのかどうか。
家のローンはどうなったのか。
結局は何も変わらず、日々は続いていったのか。


来日したら見たいなあ。