『がんばれ!ベアーズ』

人間誰しも無条件に反応して抗えないストーリー展開というものがある。
先日『タンポポ』を観たときに僕は
流れ者が弱きものを助けて去っていく話にめっぽう弱いと再認識させられた。
西部劇の大半がそうですね。
もう1つ弱いのがダメチーム奮闘モノ。
笑われてたチームが思わぬ秘密兵器投入ないしはそれこそ努力で勝ち上がっていく。
だったらこれだよなあと『がんばれ!ベアーズ』を借りる。
ついでに、リチャード・リンクレイターによるリメイク
がんばれ!ベアーズ ニューシーズン』も借りて見比べてみる。


結果、オリジナルの方が断然いい。
元マイナー・リーグのプロで今は落ちぶれ、普段はプール清掃人で食ってるという
アル中のダメ男バターメーカー監督が
ジャック・レモンとの丁々発止の名コンビが今でも語られるウォルター・マッソー
古きよき時代の男の生き様を濃ゆい肌の匂いで体現している、そんな雰囲気があった。
そしてなんと言っても、凄腕ピッチャーを演じた天才子役テイタム・オニール
実は家を出て行ったバターメイカーの娘。
野球の英才教育を施したが9歳(!)にして肩を壊していた。
もう1度投げさせてベアーズを優勝させようと会いに行ったら
金稼ぐって路上で(レモネード売りみたいに)スターの家の地図を売っていて、
この場面での天性のこましゃくれっぷりがたまらない。
まじでいい。ここだけ繰り返し見たい。
テイタム・オニール扮するこのアマンダが登場した途端、
映画を全部もっていってしまう。
もう一人、バイクを乗り回す背伸びしたワルにして野球の天才少年ケリー役の
ジャッキー・アール・ヘイリー。(不遇の時期を経て、カムバック。
なんと今年リメイクされた『エルム街の悪夢』フレディ・クルーガーに抜擢)


リンクレイター版はバターメイカーこそ
女たらし面を強化したビリー・ボブ・ソーントンが板についていたけど
アマンダとケリーが全然及ばない。見ごたえがない。
(でもこれって観る順番に左右されるものであって、リメイクが先だと、
 オリジナルの方は素朴に感じられるのかもしれない)


話の大筋と試合の展開は全く一緒。
最初の方でデブのキャッチャーがバントを知らず、
嫌々球を拾って投げたらバターメイカーの車のボンネットのガラスを割るとか。
(なのでリンクレイター版の最後のヤンキース戦でフーパーが捕球するところは
 絶対そうなるだろうな、と予想がつくがゆえにホロッとする)


とはいえ細部はさすがに現代的にアップデートされていた。
バターメイカーが連中前に飲むビールがノンアルコールだとか。
人種混成チームにアルメニア系の子が入ったとか。
黒人の子が尊敬するプレーヤーがハンク・アーロンではなく
(なぜか白人の)マーク・マグワイアだとか。
なんと言ってもリンクレイターらしいのは
ケリーをチームに引き入れようとアマンダが勝負に持ち込むのが
ゲーセンのエアホッケーからスケボーのリンクに変わってて、
ケリーがデートに誘ったのがストーンズのスタジアムコンサートではなく
その辺のスケボーバンド(つまり、スラッシュメタル系パンク)になっていたこと。


そして、チームの和が重視されるようになって表向き波風が大人しくなった反面、
個としての子供たちの悪態の言葉がボキャブラリー豊富になったこと。
あけすけになった。敵意に慎みがなくなって、「単純」になった。
これってオリジナルの70年代とリメイクの00年代の差を大きく反映している。
あと、それとなくリーグ開幕前の挨拶に今はテロの時代だとそっと差し込まれたり。


正直、なんでリチャード・リンクレイター監督が2005年という時期に
この作品をリメイクしたのか理由がよく分からない。
WBCの開催が2006年に決まって映画会社側が「野球は当たる」と考えたのだろうか?
いや、時期が微妙にずれているか。雇われ仕事なんだろうな。
リチャード・リンクレイターフィルモグラフィーは雑食で掴みどころがない。
芸術的・実験的な作品をインディーズで撮る一方で
メジャーで今回の『がんばれ!ベアーズ』のリメイクや
スクール・オブ・ロック』のような娯楽作品もきっちり撮ってヒットさせる。
お金のためなのかなあ。何にせよこんな器用な人なかなかいない。
とはいえ、カラフルじゃなくてくすんでいるけど色彩がクリア、
深い部分はさらっと簡潔に語ってストーリーは次へというスタンスなど、
リンクレイターのテイストは保たれている。


とか何とか言ったところで結局はテイタム・オニール
アカデミー助演女優賞の最年少記録(10歳)を作っていまだ破られない
ピーター・ボグダノビッチ監督の名作『ペーパー・ムーン』と、これと。
僕が「天才子役」と言うとまずはこの人を思い出す。
現代の秀才ダコタ・ファニングを超える。
Wikipediaその他でその後を調べてみたら
70年代にはマイケル・ジャクソンと交際していたとか、
不遇になってヌードになったとか、
80年代はジョン・マッケンローと結婚していたけどヘロイン中毒で離婚したとか。
2008年にはコカイン購入の容疑で逮捕。
「子役は大成しない」を地で行った人のようだ。
10歳までに伝説的な作品2つに主演。
その人生は幸か、不幸か。