痛み

術後の経過を診てもらうため、朝、大久保の病院へと向かう。
たいした距離じゃないので新宿で降りて一駅歩く。
地下街からサブナードへ。西武新宿の駅で地上に出る。
エスカレーターの辺りにいつも見かけるホームレスの女性がいる。
破れた服を着て、白髪混じりの髪がボサボサに伸びている。
今日は乏しい荷物の中から何かを漁っていたが、
ここ何回かは化粧をしていた。
熱心に鏡を見つめながら口紅か何かを塗っている。
なんだかぞっとした気持ちになる。
「…正気なのだろうか」と思う。
いったい誰のための何の化粧なのか。
ホームレス仲間に気を引きたい誰かがいるのだろうか? そんな気はしない。
じゃあホームレスの集団の外に? そんな気もしない。
(というか、彼女はいつも一人きりだ)


強迫観念のように、女は女である、女であり続けようとする。
そんな無意識の動機、強いられた動機を感じる。
人が大切に思うものって何なのか、何が最後に残るのか、ということを考える。
ぞっとした気持ちというのは、そこから生まれる。


新宿という街では、たぶん、
探そうと思えば捨てられた化粧品がいくらでも見つかる。
それを拾い集める。
それらを利用して身を飾る。誰にも求められていないのに。
むしろ、目を背けられるのに。


その心の中に何を抱えているのか。
その目には何が映っているのか。


何かをしてあげたいとは思わない。
どんな過去があるのか、知ってはいけないように思う。

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昨年の冬、東京駅地下街のベンチでよく見かけたホームレスの夫婦。
今年は見かけない。
どこか別の場所に移ったのか、それとも冬を乗り切ることができなかったのか。