ベルリン その14(2/6:C/Oベルリン)

クンスト・ヴェルケ現代美術館に向かうつもりが、途中で別の美術館を見つけて入ってみる。
「C/O Berlin」という名前。ガイドブックに載ってない。新しくできたのだろうか?
地図を見ると「旧王立郵便局」とあった。
ロバート・メイプルソープの回顧展を開催していた。せっかくの機会だから見てみようと思う。
入場料10.0ユーロ。
http://www.mapplethorpe.org/exhibitions/2011-01-21_c-o-berlin/
http://www.artfacts.net/en/institution/c-o-berlin-2552/news/robert-mapplethorpe-retrospektive-5852.html


C/Oベルリンのサイト
http://www.co-berlin.info/


ポラロイドがあって、セルフ・ポートレートがあって。
パティ・スミスだけで一部屋あったのは嬉しい。
こんな言葉が掲げられていた。
「I Was Robert's first model, he himself was his second」
かっこいいですね。
『horses』や『Wave』のジャケットの元になった写真が飾られていた。
他に、「flower」と「sex」と題された部屋など。
もうだいぶ前に上野で見た回顧展と大体は一緒かな。代表作の展示としては。
でも、局部をアップにした写真の数々は日本だと無理か。
このときに買ってるので、今回こちらでは図録は買わず。


僕としては興味深かったのは
もう1つ開催されていた「SHOOT! . Fotografie existentiell」の方。
http://www.co-berlin.info/3_cos/index.php?Itemid=13


第一次大戦終了後の1920年代、お祭りの場
「photographic shooting gallary」というアトラクションが生まれた。
壁に掛けられた的を銃で撃って、見事中心に命中したらカメラのシャッターが押されるという。
銃を構えたポートレートが出来上がる。
長い間人気のアトラクションとなったが、今ではドイツやスイスにわずかに残るのみとなる。
この企画展はそのときに撮影された有名・無名の人のポートレートを集めたもの。
合わせて、「銃を手にした私」をテーマとした現代アートを幅広く。


いや、ほんと面白い。
銃の形や大きさ、銃を構えた人、服装、背景みなバラバラなのに
銃を構えて片目をつぶっているという構図はどれも一緒なんですね。
そして構えている人の周りを取り囲んでいる人たちとの関係性もそれぞれで面白い。
ひやかしたり、興味なさそうだったり、一緒になって喜んでいたり。
有名人としては、フェデリコ・フェリーニアンリ・カルティエ=ブレッソン
ブラッサイジュリエット・グレコロバート・フランクなど。


僕個人がとても感銘を受けたのは
オランダのとある女性が1936年の16歳から、第2次大戦の1939年から1945年を除いて、
今に至るまで毎年このアトラクションでポートレートを撮影していたのを全て並べたセクション。
太った大柄なおばちゃんが銃を構えた姿、70年分。
(図録はこれらの写真をパラパラ漫画のようにページの隅に配置しているのが気が利いている。
 ページをめくるとおばちゃんがどんどん若返っていく。奇跡)


ああ、これこそがアートだ、これこそが芸術だと僕は思った。
撮ってるとき(撃ってるとき)のおばちゃんには芸術的な意図は全くなく、
たまたま生み出されたものに過ぎないだろう。
(このおばちゃんが自ら出品したのではなく、その存在を知ってコンパイルした人がいた)
今回、芸術とは何か? ってことを何度も考えた。
例えばナショナル・ギャラリーの、ベルリンの壁をキャンバスにして描かれた絵と
先ほど訪れたタヘレスのジャンク・アート
前者は芸術の残骸だし、後者は残骸の芸術だった。
そういうのよりもこれらの写真の方が一段も二段も価値があると僕は思うんですね。
時間を超越して残されるべきはこちら。
うまくは言えない。歴史的・記録的価値と芸術的価値を混同しているのかもしれない。
ただ単にドキュメンタリーやノンフィクションが好きなだけかもしれない。
こういうことではないかと考える。
ナショナル・ギャラリーやタヘレスで見られたアートは
対象をAからBに変化する過程において美なり芸術的価値を生み出すというものだった。
目の前の作品/対象が全て。静的。
その一方でおばちゃんの連続した写真は「間」の芸術なんですね。
その間に様々な意味を込められる、引き出せる。
そしておばちゃんが生きている限り写真の数は増えていく。
死という終止符がいつか訪れるだろうけど
そのコンセプトにおいては未完成のままにあることを前提としている…


展示においては他に、銃を撃つ自画像のバリエーションがいくつか。
オッと思ったのはクリスチャン・マークレイの作品があったこと。
Crossfire」というタイトルで
4面スクリーンにいろんな映画からサンプリングした銃撃の場面を映し出す。
その場に現れる。弾を込める。息を詰める。そして撃つ。撃つ。撃ちまくる。
撃たれる。撃つ。転げ回る。撃つ。撃ち尽くす。一瞬の静けさが訪れる。
弾を込める。そしてまた、撃つ。撃つ。撃ちまくる。
カウボーイ映画。ベトナム戦争映画。スパイ映画。アクション映画。
北野武の姿もあったなあ。
これもまた体験できてよかった。


「photographic shooting gallary」体験コーナーがあって、ライフル3発で2ユーロ。
最初の2発は的を外したが紙には当たった。3発目は全然当たらず。
なので写真は撮影されず。
見てると皆けっこう真ん中に当てて写真をもらってるんですね。
悔しいなあ。もう1回やろうかなあと迷っていたら
最初の1発で当てた男性が「やる?」と周りの人にライフルを差し出す。
別な人が1発試した後で、最後の1発を僕が撃たせてもらった。
でもやはり外してしまった。残念。
ここで写真を撮れたら自分への一番のお土産になったのに。


こっちの方は図録を買った。
メイプルソープパティ・スミス「horses」の絵葉書を1枚買った。
ウィリアム・エグルストンのモノクロの写真集が48ユーロ。
欲しくなるが我慢する。


バルセロナで見た「ジャズの歴史」にメキシコシティ都築響一展。
そして今回の「Shoot!」
その国でたまたま見ることのできた企画展というのはどれも心に残る。


図録を読むと元々はパリで企画・開催されたものとのこと。
もしかしたら日本にも来るかも。来てほしいなあ。