こんなサントラを持っている その12

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Underworld and Gabriel Yared『Breaking and Entering』


2006年の作品。
当時、あの Underworld が映画音楽を手掛けたということでかなり話題になった。
この頃には既に単なるダンス・アクトではなくなって、
Underworld という1つのジャンルとなっていたように思う。
音源のネット配信に力を入れ、
それと同時にアナログ限定の新曲リリースも積極的だった。
(日本盤のサントラのボーナストラック「JAL To Tokyo」がその1つ)


対するガブリエル・ヤレドは映画音楽の巨匠であって、
ゴダールの『勝手に逃げろ/人生』を皮切りに
日本でもファンの多い『ベティ・ブルー』を手掛け、
アンソニー・ミンゲラ監督とは
イングリッシュ・ペイシェント』『リプリー』『コールド・マウンテン』
とコラボレーションが続いて、そして本作『こわれゆく世界の中で』へ。
近作には『善き人のためのソナタ』など。


両者がどのように楽曲を組み立てていったのかは分からないんだけど、
ピアノによるテーマの主旋律はガブリエル・ヤレド
バックのリズムを伴った音色が Underworld となるか。
ダンスに向いたメリハリの効いた音ではない。
あくまでヨーロッパ的な上品な映画音楽。
これまたかなりよい。


Underworld というと、
やはり『Trainspotting』での「Born Slippy / Nuxx」が忘れられない。
映像と音楽が一体化する幸福な瞬間があった。
曲そのものも1990年代を代表する名曲なんだけどね。
今でも何かに付けて引き合いに出される。


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□『The Adventures of Priscilla : Queen of the Desert』


「好きな曲を1曲だけ挙げてください」と聞かれたとしたら僕は
シャーリーンの「愛はかげろうのように」(I've Never Been To Me)を選ぶ。
ロックでもなんでもなくて、欧風懐メロなんだけど
詩も曲もシャーリーンの歌い方も全てがいい。
愛する人を求めて私は人生を旅した。
ジョージアからカリフォルニアへ、
ギリシアからニースへ、そしてモンテカルロへ。
私はパラダイスにいたつもりが、そうではなかった。
それが私の人生だった。


僕が小学生か中学生の頃、ドラマの主題歌となった。
日本人の歌手が日本語訳の歌詞で歌っていた。それが忘れられない。
調べてみたら椎名恵という歌手が1986年に発表した
『Love Is All 〜愛を聴かせて〜』だった。
http://www.youtube.com/watch?v=VzS232kKSGE
小柳ゆき岩崎宏美テレサ・テンもカヴァーしている。


10代のどこかでこの曲はカヴァーだということを知る。
原曲を聞いた。ラジオかCMで。
しかし、誰のなんという歌か分からない。
どこで聞いたのかも思い出せない。
心の中でずっと引っ掛かっていた。


それがある日、たまたま借りてきたビデオの1曲目で流れてきた。
エンドクレジットで恐らく、シャーリーンの曲だと知る。
いてもたってもいられなくなってサントラを買いに行く。
やはりそうだった。これだ! と心の中でガッツポーズ。
サントラにはそんな出会いもある。


テレンス・スタンプと若き日のガイ・ピアース
エージェント・スミス役のヒューゴ・ウィーヴィング
この3人がドラッグ・クィーンとなって
それぞれのささやかな夢をかなえるためにオーストラリアを横断する。
その冒頭、きらびやかな衣装を着たヒューゴ・ウィーヴィングが口パクで歌う。
(なお、全編で繰り広げられるゴージャスな衣装がアカデミー賞を獲得した)


この曲だけではなく、
Village People「Go West」
ABBA「Mamma Mia」
Alicia Bridges「I Love the Nightlife」
Gloria Gaynor「I Will Survive」
Vanessa Williams「Save the Best for Last」
などディスコ系ソウルの名曲がたくさん入っている。


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□Randy Newman『Cold Turkey』


ランディ・ニューマン
70年代ウェストコーストを代表するシンガーソングライターであって
『Sail Away』が代表作として挙げられる。
職業作家として Harpers Bizaar や Three Dog Night など
当時の人気グループに曲を提供していたが、
叔父たちが映画音楽の作曲家だったこともあって自然とその方面へ。
80年代以後はアカデミー賞の歌曲賞や作曲賞のノミネート常連となる。
たくさん獲得しているかと思いきや、意外と『モンスターズ・インク』だけだった。
今回も『トイ・ストーリー3』で候補になった。
(このシリーズの1や2でも候補となっている)


このアルバムは日本では公開されていない
『タバコのなくなる日』という1970年代初めのコメディー映画のサントラ。
昨年、大阪のアメリカ村の King Kong で見つけて買った。
1000枚限定で、当時のメモを見たら中古なのに2,800円と若干プレミアがついていた。
ランディ・ニューマンが歌うのは1曲だけで、後は劇伴のみ。
オールド・ファッションドな古きよきアメリカが聞ける。


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□『Rockers


レゲエと言えば『The Harder They Come』かこの映画、
というぐらいに有名なんだけど残念ながら僕はまだ観たことがない。
DVDで見てもしょうがなさそうで、リバイバルで劇場公開されるのを待っている。
1979年の作品。ストリートでレゲエが最もアツかったのはこの頃、なのだと思う。


メンツがすごい。
Junior Marvin, Burning Spear, Gregory Isaacs, Bunny Wailer, Peter Tosh,
Third World, Inner Circle, The Upsetters など。


ジュニア・マーヴィンの「ポリスとコソ泥」はもちろん、
The Clash がカヴァーした曲のオリジナル。


ベタな言い方だけど、レゲエの入門盤としてよいと思う。


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Arvo Part『Alina』


厳密にはサントラそのものではないけれど、
ガス・ヴァン・サント監督、
マット・デイモンケイシー・アフレックが主演の『ジェリー』で使用された
「Spiegel im Spiegel」「Fur Alina」の2曲が
ヴァリエーション違いで計5曲収録されている。


アルヴォ・ペルトエストニアに生まれた現代音楽の作家。
他の作品を聞いたことはないんだけど、極限まで行き着いたミニマリズム
上述の2曲も前者はピアノとヴァイオリンないしはチェロ、後者はピアノだけ。
音数はものすごく少ない。
なのに隙間を感じさせない。
ただ単に空いているのではなく、「無」がそこに存在している。
変転するような、流れるような。
そういうところが、絵画的というより映像的である。


映画的なミニマリズムというと僕は他にベルギーのウィム・メルテンを思い出す。
こっちのほうがもうちょっと音が多い。人懐っこい。
『Maximizing the Audience』という作品が好きで僕はよく聞く。