Can と映画音楽

Can の首謀者だったホルガ―・シューカイが亡くなって数年。
ソロアルバムの紙ジャケってまだ入手可能だろうかと調べていたら、
『モーヴァン』という映画のサントラに出会った。
10年ぐらい前にたまたま借りて見たことがあった。
まだ若い女性の監督の作品で、ミステリアスで独特な陰影を持った映像だったという印象がある。
『コントロール』や『ミスター・ロンリー』のサマンサ・モートンが主演だった。
 
トラックリストを見るとなかなか面白い。
 
01. I Want More - Can
02. Goon Gumpas - Aphex Twin
03. Everything You Do Is A Balloon - Boards Of Canada
04. Spoon - Can
05. Blue Milk (edit) - Stereolab
06. I'm Sticking With You - The Velvet Underground
07. You Can Fall - Broadcast
08. Gamelan Drumming
09. Cool In The Pool - Holger Czukay
10. Hold Of Death - Lee Scratch Perry
11. Some Velvet Morning - Lee Hazlewood
12. Japanese Cowboy - Ween
13. Fragrance - Holger Czukay
14. Nannou - Aphex Twin
 
へんてこな組み合わせだなあと最初首をかしげたけど
取り寄せて聞いてみたら案外流れがよく、しっくりくる。
このトラックリストをつくった方は映画も音楽もよくわかってるなー、と思った。
Aphex Twin で知られる Warp レーベルが最初に手掛けたサントラとのこと。
その Aphex Twin は間を埋める小品という感じの2曲でどちらも既発曲だけど。
 
Can が2曲とホルガ―・シューカイが2曲。
Can の「Spoon」「I Want More」はどちらもバンドの代表曲で、
ホルガー・シューカイの曲と合わせてサントラの中核を担っている。
そういえば『ノルウェイの森』のサントラも Radiohead のジョニ―・グリーンウッドが手掛けて、
「Mary, Mary, So Contrary」「Bring Me Coffee or Tea」
「Don't Turn the Light On, Leave Me Alone」
と Can の3曲が印象的な使われ方をしていた。
 
Aphex TwinBoards of Canada といったエレクトロ系室内楽と並んでも
リー・ペリーのダブとつながっても何の違和感もない。 
Can はどこにもない音楽で、なんにでもなれる音楽なのだと思う。
手を伸ばせばすり抜けてしまう、不思議な浮遊感がある。
そのどこか不安定な感じが登場人物のモヤモヤした気持ちを表すのにうまく寄り添うのではないか。
映画的な音楽。
実際、手掛けたサントラを集めた『Soundtracks』というアルバムもあるし、
ファーストのタイトルは『Monster Movie』だった。
ホルガ―・シューカイにはそのものずばりな『Movies』『Cinema』というアルバムも。
 
映画界きってのロック通の一人、ヴィム・ヴェンダース
『夢の遥てまでも』という作品があって
そこで Can は「Last Night Sleep」という未発表曲を提供していた。
1980年代末の再結成のときの音源で、輪郭のゆるんだ独特な浮遊感がさらに増していた。
 
余談ながら、このサントラがすごくて、
そうそうたるメンツの未発表曲、未発表バージョンが収録されている。
この映画のためにつくられた曲なのだろう。
パティ・スミスは夫フレッド・スミスと共演。
『ベルリン 天使の詩』で有名になった
ニック・ケイヴと Crime & the City Solution にも声をかけてきちんと義理を通している。
今見たらニナ・チェリー、ジェーン・シヴェリー、ジュリー・クルーズ、K.D.ラングの名前もあった。
いろんなサントラできっちりいい仕事をしてきたダニエル・ラノワとTボーン・バーネットも。
でも、今一番の驚きはオープニング・タイトルやエンディング・テーマを書いていたのが
グレアム・レベルで、元々は1980年代を代表するノイズバンドである SPK のメンバーだった。
活動停止したのちに映画音楽の作曲家に転身したと聞いていたが、
こういうところで仕事をしていたか。
こういう並びの中だと、さすがに Can は別の意味で、浮く……
 
おまけ。
The Velvet Underground「I'm Sticking With You」は
10年ぐらい前にアカデミー脚本賞を獲った傑作『Juno』でも使われていた。
Velvets の紅一点、モーリン・タッカーの歌う小品。
かわいらしい曲なのに「あなたのことはアキアキ」と毒を含ませるというのが
映画の1シーンに当てはまりやすいのだろう。