彼女は目を覚ました。起き上がり、壁にその上半身をもたせかけた。
ドキドキしている。止まらない。
目を閉じて、息をそっと吐いた。ぎこちない呼吸を繰り返す。
何度も、何度も。
何年も前に別れた恋人が夢の中に出てきた。
夢の中では平然としていた。その事実を受け入れていた。
気がつくと彼はそこにいて、互いに笑顔を浮かべながら話し始めた。
なのにその声は聞こえない。彼が何を言っているのか分からないし、
自分が何を言っているのかも分からない。
だけどそれがなぜか自然なことのように思われた。
もうひとりの自分は、遠くから、そんな2人を眺めていた。
ゆっくりと遠ざかっていく。
私は恋人とあてもなく歩いていたようだ。
その姿は見えないけれども、そこにいるのを感じた。
ああ、と思った。私はそれがどこなのか知っている。
そこで目が覚めた。
ベッドの外に出て彼女はコーヒーを沸かした。
キッチンのテーブルにて頬杖をつく。
彼がどこにいて何をしているのか、私は知らないことになっている。
いや、本当に知らないのだ。あれは違うのだ。
休日を過ごす。午後になり、夕方になる。
彼女は夢を見たことを忘れる。
しかし、彼のことは何度も思い返す。
そのたびにドキドキする。今頃、なんでだろう?
この「今頃」が気になる。
どうしようか? いや、どうもしない。
夜になって、また眠りにつく。
私は今日も夢を見るのか。
彼には会えるのか。
彼女は暗闇の中に沈みこんでゆく。
また新しい夢を見る。