ボツ案1

自分一人にだけ届いている新聞があるとしたら。


とある地方に引っ越して、古びたアパートへ。
荷解きをしていたらドアをノックする音がして
出てみると新聞の勧誘。自分と同い年ぐらいの男。
見たことも聞いたこともない新聞。
まあ地方紙なのだろうと疑いもなく、
「1ヶ月だけでいいから」の声に「ま、いいか」と取ってみることにする。
その後男の顔を思い出そうとしてみてもうまくいかない。


2時間か、3時間か。段ボールを開けて片付ける作業にも飽きてくる。
畳に寝そべって先ほどの新聞を読んでみる。
一面のトップ記事、広告、クロスワードパズル、社説、
連載小説、テレビ欄、俳句・川柳、一コママンガ、書評、
読者の投稿、お悔やみ、株価、プロ野球の結果、コラム…
これはどこをどう見ても新聞だ。しかし、何か違和感が残る。
それが何なのかは分からない。


次の日、朝起きると普通に新聞が届いている。
一面のトップ記事、広告、クロスワードパズル、社説、…
取り上げられた事件はテレビをつけたときにニュースで見かけるものと違う。
これが地方というものなのか。世の中の動きとずれている。いや…


こんなふうにしてパラレルワールドへと取り込まれていく。
テレビも見なくなり、この新聞だけが半径3mより外の世界との接点になる。
そのことに主人公は気付かない。
知らず知らずのうちに世界は変容してしまっている。
そして自分という存在もまた。時空の歪みに絡め取られる。


誰が何の目的でそんなことを仕組んでいるのかは、分からないまま。
しかし、蜘蛛の巣にかかった小さな虫のような。


当初の約束だった1ヶ月が近づいて、
新聞は「世界の終わり」についての記事が増える。