丸善に檸檬を置く


9/10(月)、友人の冗談にヒントを得て、
丸善(というかその中の松丸本舗)に檸檬を置いてきた。


丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、
 もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として
 大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。


もちろん、梶井基次郎です。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/424_19826.html


オフィスを定時に出て、近くのスーパーに寄って
1個118円のカリフォルニア・レモンを買うと、会社鞄にそっと忍ばせる。
神保町から丸の内まで歩いていく。
夕暮れ時。いつも通り、iPhone で音楽を聞きながら。
ほんの少し、ドキドキする。


画集を積み上げてその上にそっと置いてくる。
ただそれだけのことなのに。
誰かに見つかったらどうしよう?
それが店員やブック・ショップ・エディターだったらなんて言い訳しよう?
僕は画集を元に戻して、檸檬を持ち帰ってくるのか。


そんなこんなで考え続けて20分。
オアゾ丸善に到着する。エスカレーターに乗って4階へ。
鞄を開けて、無造作にスーパーの袋から取り出して、
包んでいたサランラップをはぎ取る。
そしてまた鞄の中に戻す。


松丸本舗の中へ。月曜の夕方なのであまり客はいない。
ササッと一周してみると担当のブック・ショップ・エディターが知っている方で、
「うわ、しまった」と思う。接客中だったけど、まずい、見られたか。
いや、大丈夫のはずと信じて画集・写真集の集まっている棚へ。
その裏側が松丸本舗の中心部、一番の奥。
せり出した平台が目に付いた。よし、ここだ。運よく誰もいない。
適当に三冊、画集を大・中・小と選ぶ。戻って積み重ねる。檸檬を置く。
iPhone で写真を撮って、終わったらささっと後にする。
結局3分も中にいなかった。


檸檬と画集はそのまま。
ちょっとしたいたずら、ないしはアートと思ってくれないかな、と。


黙ってようかどうしようか迷って、facebook に写真を上げた。
丸善檸檬を置いてきた。」とだけ書いた。
「犯行声明」とか「爆発します」って書こうかな、とも一瞬考えたけど、
明日は9.11だと思い当たり、やめた。


その後、周りのどこからもこの件は話題にならず。そんなもんか。
昨日、松丸本舗閉店イベントの一環として
ダンサーの田中泯が中で踊るというので会社帰りに覗いてみた。
平日にしては珍しくごった返していた。
思い切って見てみると、檸檬も画集も片付けられていた。やっぱり。
なんてことはなく、スルーされたようだ。
平台の上に本が置かれている。その周囲に広がる静けさ。
何事もそこでは起こらなかった、と言わんばかりに。


不発弾の檸檬はどうなったのか。
捨てられたのか、誰かが持ち帰ったのか。
僕はそのひんやりとした感覚を思い出す。