『マリア・カラスの真実』

昨日・今日と『マリア・カラスの真実』というドキュメンタリー映画を観ていた。
タイトル通り、不世出のオペラ歌手:マリア・カラスの生涯を辿るという内容。


昨年ジャン=ジャック・ベネックス監督の『ディーバ』を観て、
それまで縁遠いと思っていたオペラ・アリアというものの美しさを知る。
そこではウィルヘルメニア・フェルナンデスが
マリア・カラスを髣髴させるカリスマ的ソプラノ歌手を演じていた。
次にどこに向かうかといえばそれはやはりマリア・カラスなわけで。
…それしか名前を知らないし、まあそれで十分かもしれないし。
この辺りのことは先月も書いた。


ドキュメンタリーを見てて驚いたのはその変身っぷり。
貴重な写真やモノクロ映像が差し挟まれているんだけど、
20代の売り出し中の頃は過食症で体重は100kgを超えていた。
どの映像を見てもむっちりしている。別人としか思えない。
有名なデザイナーをして「晴れ着を着た農婦」は言いえて妙。
10代の頃は音楽の勉強だけが生きがいで色恋沙汰にも興味がなかった。


それが世界的なスターへの階段を駆け上がって行くにつれて
35kgのダイエットに成功、パリのトップ・デザイナーの服を着て、
社交界にもデビューという華麗なる変身。
そして当時世界を代表する大富豪だったオナシスと互いの離婚を経て結婚に至る。
モナコで暮らし、エーゲ海をクルーズする。パリのホテルのスィートに住む。
ギリシアからの貧しい移民の子が、近眼で太っちょの子が、ここまでなるか。


歌うことはそもそも自ら望んだのではなく、
やがて金になると見込んだ母親の指示だったというのが一番驚く。
生涯を通じて折り合いの悪かった母親との仲が普通だったら、
マリア・カラスは生まれなかったのだ。
どこかで普通の結婚をして、働き通しのまま寂しく一生を終えただろう。


顔つきがあるときからガラッと変わる。まさに魔性の女。
たぶん世界の一流のメイクアップ・アーティストと関わった
というのもあるんだろうけど、どちらかと言えば
勉強熱心だった若き日のマリア・カラスの身体を通して入り込んできた
様々な役柄が一挙に統合して噴出したとでも言うべきか。
それがオペラ歌手にしてゴシップの女王:マリア・カラスの仮初めの人格を形成した。
歌を地でいくというか。
そんなところもあったのではないだろうか。