『セデック・バレ』

昨日は月に一度の会社を休んで映画を観に行く日。
渋谷シネパレスで『ハングオーバー!!! 最後の反省会』を見た後に
http://wwws.warnerbros.co.jp/thehangover3/


キネカ大森で『セデック・バレ』の第一部と第二部を続けて。
http://www.u-picc.com/seediqbale/
こちらについて少し。


2011年の台湾映画。
第一部144分、第二部132分で合計4時間半の超大作。
その年の台湾アカデミー賞で作品賞を受賞、台湾史上歴代一位の大ヒット。
昨年の大林宣彦監督『この空の花』みたいな感じで
僕の身の回りの編集学校関係では評価が高く、価値観が変わると。
公開時見逃していたのがたまたまキネカ大森でやってると分かり。
名画座っていいですね。
大森に3年ぐらい常駐していたのにこれまで一度も入ったことがなかった。
見逃していた『TED』や『桐嶋、部活やめるってよ』も今週やっていた。


台湾は1895年より日本の統治下に入り、それが1945年まで50年間続いた。
映画が描くのはその1895年と「霧社事件」の起こった1930年。
台湾の奥深くの山岳地帯。
原住民族のセデック族がいくつかの「社」(集落)に分かれて暮らしていた。
古くからのしきたりに従って狩場の縄張り争いをくり返す素朴な生活に
突如「日本」が現れ、警官が高圧的な態度で支配するようになる。
原住民と蔑み、人間扱いされず、低賃金の仕事を与えられる。
(その一方で文明化も進む。子供たちは学校に通い、日本語を覚える)
鬱屈した感情を日本人に対して抱いたまま数十年と生き続けた彼らは
あるとき、日本人警官の無礼な振る舞いをきっかけに武装蜂起を企てる。
12ある社のうち7つが加わった。
子どもたちの運動会の日を、彼らはターゲットとした。
最初の日は奇襲攻撃でうまくいったものの、日本軍の報復は容赦しない。
弓と刀と銃があるだけの彼らに対し、大砲や機関銃や飛行機からの毒ガス。
やがて追い詰められていく。ひとりまたひとりと仲間を失っていく。
しかし彼らはしぶとい。山を知り尽くし獣のように走り回る。
たった300人で数千人を相手にする。手をこまねていた日本軍は
放棄に加わらなかった社の者たちを日本軍として徴用し、同士討ちさせる。
そこから先はあっというまに形勢が逆転する。
最後の総攻撃の日が訪れて…
女たちは我が子を殺して自殺し、
生き残った者たちも敵に捕まるぐらいならと自死する。


いや、もうほんと壮絶な戦争映画というかなんというか。
4時間半の大半が戦闘シーン。
首を撥ね、女・子どもも皆殺し、子どもたちも銃を手に戦う。
それが史実の通りだったとしたらその通りに描く。正しい。
アメリカではもうこういうの撮れないだろう。日本でも。
この前ある人から聞いた話として、テレビドラマで
悪人が悪巧みのため車で移動するというとき、
後ろの座席に座った者がシートベルトを締めるという。
そんな悪者いるかよ、ってなもんで。
でもそうしないとコンプライアンスがどうこうの話で、
視聴者からクレームが来るから。


ゲリラ戦の指揮者として描き方が似て来るんだろうけど、
思慮に富んだ主人公モーナ・ルダオはチェ・ゲバラのようだった。
(ものすごい存在感なのに素人だというから驚き、ほとんどの出演者がそう)
臨場感ある戦闘シーンは『七人の侍』を思い出した。
日本から美術スタッフ、韓国からアクションの指導、
香港のジョン・ウー監督がプロデューサー陣に加わるという
モザイク状のアジアで撮った台湾映画という形態も興味深かった。
残念なのはいかにもデジタルカメラで撮りましたという
フラットな質感の映像だったこと。
森の中の木漏れ日のひとつひとつを丹念にフィルムで撮影していたら
もう全然違っていただろうなあ。


セデック・バレとは「真の人」とのこと。