通勤電車

二子玉川に引っ越して半年。
毎朝、大井町線目黒線三田線を乗り継いで神保町へ。
試行錯誤の結果だいたいのところ座っていける組み合わせがわかった。


例)二子玉川駅で乗る大井町線
 「急行の前の各停」(次の駅で急行の通過待ち)は空いている。


例)大岡山の駅で乗り換えるとき、
  ・三田線:西高島平行き
  ・南北線:浦和美薗行き とがある。
 「ああ、この人はいつも南北線に乗ってる」
  というのを覚えておいて後ろに並ぶようにする。
  南北線が発車した後、三田線を待つ列の先頭に立てる。


そんなわけで毎日同じ時間の同じ車両の同じ位置から乗るようになったんだけど
そうすると何人か毎日必ず顔を合わせる人が出てくる。
挨拶をしたりはしない。だけどお互い気づいている。
乗りこんだときに残り一席しかなかった場合、気まずいことになる。
明確に自分が最初に並んでいたときは僕がその席を取ることができる。
しかしそうじゃなかったときにはその席は譲らないといけない。
無言のルールがある。我々はプロの通勤人だ。


3月まではだいたいのところ座れた。
4月に入ってからはまじめに出勤する人が増えるのか、座れないことが多かった。
5月に入ってようやく週の半分は座れるようになった。


大岡山の駅で三田線が来るのを待つあいだ、
少し離れた隣の列で毎朝必ず見かける初老の男性がいる。
4月のある日、車両に乗ってから並んで吊り革を掴んで立つということがあった。
僕はいつも左側に入っていって、彼は右側へとよけていくから、
走り出してから顔を見かけることはこれまでほとんどなかった。
それが思いがけず…、となってなぜか意味もなくドキドキした。
隣に立っていて、本を読むにも変に意識してしまう。
彼の方はいったい何を考えているのだろうか。


そんなとき、目の前の席がふと空いたりして、つい譲ってしまった。
座るとき彼は軽く会釈をしたように思う。
しかし目は伏せたままだった。
明日からは車両を変えようかと一瞬考える。
まあいいかと次の日以後も同じ時間、同じ車両、同じ列に僕は立った。
何事もなかったかのように隣り合わせた列に並んで三田線に乗っていく。
初夏になり、クールビズ。季節は巡る。
通勤する、ということだけは変わらない。


僕は半年前からここに並ぶようになった。
彼は何年、何十年前からここに並んでいるのか。
何年、何十年とこれから先も並び続けることになるのか。