都市の記憶、その残骸で形作られた町

世界の果てのどこか。
都市の記憶、その残骸で形作られた町がある。
高層ビルが乱立し始めた時期の上海の路地裏。
みすぼらしい薄暗い家々が今にも取り壊されようとしている。
打ち捨てられ、不法占拠者が住むベルリンの集合住宅。
アーティストを名乗るものたちが建物自体をアートに変えていく。
マラケシュの迷宮のようなバザール。
その軒先で使われている携帯や衛星放送のパラボラアンテナ。
名もなき都市の片隅に置き去りにされた人形たち。
腕をもがれていたり、その靴が片足だけになっていたり。


建物や家具、電化製品、その断片がとりとめなくぐにゃぐにゃと詰め込まれている。
そのパーツを手にとってもどこの何なのかはわからない。
しかし都市の残骸は1mから5mぐらいの範囲のゾーンを形成していて、
一歩引いてみるならばそれがどこなのか、元々を知っている者には皮膚感覚で分かる。
ああこれはニューヨーク、セントラルパークの…、というような。
町は無限に増殖する。その境目は絶えず広がり続けている。


年齢も国籍も性別も不詳の番人たちが何人か住んでいる。
取り立てて何をしている、というのでもない。
いくつかある門の門番として佇んでいたり、図書館の机で書き物をしていたり。
(もちろんその図書館は棚が理路整然と並んで分類別に本を、というものではない)
皆揃って無言で、彼ら同士で集まって話すということはない。
互いの存在に永遠に気付くことはないかのよう。
彼らがどこから来たのかはわからない。


都市に迷い込んできて人たちもいる。
世界の外れを旅するうちにたどり着いた人たちもいるし、
ある朝目覚めるとここにいたという人たちもいる。
彼らはそれまでの生活の記憶を持ち、話すこともできる。
途方にくれたまま、あるいは諦めきってその町で暮らしている。
町の外に出ることはできない。
何も知らずに子供たちがガラクタの間を飛び回って遊んでいる。
大人たちは埋もれた棚の中から食べ物を探す。


主人公はその迷い込んできた人たちの一人。まだ若い女性。
最初のうちはその町からの脱出を試みるがうまくいかない。
そのエリアのコミュニティに受け入れられて生活を営むようになる。
しかし、その町が何であるのか、何のために存在するのか、その探求は続けようとする。
番人たちに話しかけても反応はない。
どこもかしこもジャンクであふれかえっているのに手がかりは何もない。


あるときふと、どこが町の中心なのかを知りたいと思って探し始める。
そこに何かがあるのではないかと。
果たしてそこに地下への階段があって、手に入れた鍵でドアを開けると地下通路が続いていた。
しばらく行くとまた別のドアがあって…、だけどどうしてもそれを開けることができない。
来たときにはまっすぐだったはずの通路が、なぜか無数に折れ曲がっている。
狭くて低くて、壁は硬い。
主人公は一人きり、帰り道がわからなくなる。
また一人、町に呑み込まれた。そして…