移動サーカス

日曜の夕方、妻と散歩がてら公園の広場へ。
新酒祭りのテントが並んでいる。
この前の冬とその前の冬と。
この時期もやってたなんて知らなかった。


日本酒の屋台を中心としてその周りに客席。
テントの配置はいつも決まっていて、周辺には器や古い家具も。
八丈島に関係があるようでくさやも焼いて売っている。


澤乃井など東京都の酒蔵の新酒が並ぶ。
紙コップで一杯500円から700円。
いつも同じ広島焼き、たこ焼き、もつ煮の店が出ていて、
どの店もうまい。結局3つとも買ってしまう。


隅の方に空いている客席を見つけて座った。
もつ煮を買って戻ってきたら、隣の席に二組の家族が移ってきていた。
そのうちの一人、同い年か少し下ぐらいの父親が
結構酔っぱらっていて大声で話し、腕には刺青があった。


テキヤ関連の仕事なのか、
周りの屋台の人たちが通るたびに親しげに話しかけていた。
息子が鉄砲をやりたいというので、じゃあ見本を見せてやると立ち上がって出ていく。
僕がじゃまかもと隣の椅子をテーブルの下にひっこめると
「ありがとうございます」と礼儀正しくお礼を言った。ちゃんとしている。


もしかしたら僕よりも年収あるのかもなあ。
ハワイ旅行を家族で行くけど、オーシャンビューじゃないから思ったよりも安かった、
みたいなことをもう一組の家族と話していた。
少なくとも僕よりは楽しく生きていて、僕よりは地域社会に貢献しているように思えた。


新酒祭りは2週間開催されていて、この日が最終日だった。
平日の午後通りがかった妻が見たところでは老夫婦が一組いるだけだったという。
そういう寂れ具合も、風景としてはいいものだ。


おそらく今週はまた別の地域で同じように、
器と家具とくさやで新酒祭りをやっているのだろう。
一年中そんな風にして移動し続けて暮らしている人もいる。
こちらは半年に一度見かけるだけだから、
そういう人生もいいか、なんて無責任なことも思ってしまう。


紙コップ一杯の日本酒でいろんなことを考える。
飲み終えてまた家路に着く。