ヒロシ『ひとりで生きていく』

先日新宿の紀伊国屋書店に行ったらヒロシの本が目立つところに山積みになっていた。
『ひとりで生きていく』というタイトル。
サイン本であるという。思わず買ってしまった。特典でクリアファイルももらえた。
 
子供時代から群れの中に入っていくことができずひとりポツンとしていたこと。
芸人になろうとして上京するもうまくいかず、歌舞伎町のホストとして鬱屈した日々を過ごしたこと。
ヒロシです」のネタで大ブレイクして月収4,000万にまで上り詰めたが、
芸人たちの間で浮いてやはりポツンとしていて、
一方でテレビではやりたくもない仕事が増えてドロップアウトしてしまったこと。
いろいろとやりたいことの種を蒔いているうちにひとりキャンプの Youtuber として当たったこと。
などがライトな啓発本といった感じで書かれている。
6ページで1チャプター、最初と最後のページは大きくヒロシの格言。
章の最後ではそれらをまとめて並べてチェックリストにしている。
 
一番好きな芸人は誰ですか? と聞かれたら僕は迷わずヒロシと答える。
シャンソンと共に繰り出す「ヒロシです」が今も大好きで、
BS朝日の『お笑い演芸館』で半ばイヤイヤいつもとさして変わらない小ネタを連発しても
やっぱこの人は面白いなあと思わず見てしまう。
自分と同じ匂いがするから、なのだろう。
基本一人が好き、ひとりぼっちのいいところも辛いところも
子供のころから骨の髄まで味わってきた、という。
 
このサインも仕事と割り切ってイヤイヤ書いたんだろうな。
熱意のようなものは何も感じられない。
これなら大きなイモバンのようなものをつくってペタペタ押すだけでいいじゃないか、
とも思うが、それでもひとつひとつ手書きするところに
この人ならではの生真面目さが表れている。
このサインを手に入れたことで僕とヒロシとの間の距離間が縮まったということはない。
平行線は平行線のまま。
それがひとりぼっちというもの。
 
「昨日は友でも今日は他人」
「強くつながった人間関係を信じることは危険」
「他人に勝手に期待しない」
「できないならば中途半端に群れない」
「置かれた場所で咲くのはしんどい」
「値踏みされる名刺は出さない」
といった格言的チャプタータイトルが並んだ中で、あっ! と思ったのが
「二度と会うことのない人でも丁寧に接する」
 
「旅の恥は搔き捨て」という考え方はよくない、
ひとりぼっちだからといって周りの人にぞんざいな態度をとってはならない。
出会う人に上手に付き合っていかないと人生というひとり旅を続けられないと。
これは全くその通りだな、と思った。
そして、「丁寧に接する」というのは機嫌をとったりお世辞を言うことではなく、
誰とでもフェアに接することなのだと。
ここにヒロシという人間の人生哲学が集約されているのだな。
僕もかくあらねば。
 
The Blue Herb の今年出た新作2枚組を昨日今日と iPhone に入れて会社の行き帰りに聞いた。
札幌で生まれ育ったラッパーとして得られた成功と挫折。別れと裏切り。
それまでの鬱屈したライフストーリーが語られる。
ラップのアルバムを聴くというよりも自伝の朗読のようでズシリと重かった。
ああ、この人も、この人たちもまたひとりぼっちなのだ。
 
そのひとりぼっちを認めたくない、回避したいという思いが
この消費社会を形作っている。
そこに乗っかっていいことはあるのかい? とヒロシは何度も何度も問いかけていた。