邦題というもの

週刊文春桑田佳祐の連載が面白く、毎週欠かさず読んでいる。
自らの音楽編歴を振り返るという内容が例の軽妙洒脱なクワタ語で綴られている。
 
先週のテーマは邦題。
ビートルズで言うと
「抱きしめたい」(I Want To Hold Your Hand)
「涙の乗車券」(Ticket To Ride)
「ひとりぼっちのあいつ」(Nowhere Man)
これがグッとくるのだと。
 
しかしこれらは皆シングルであって、アルバムはカタカナのままですよね。
『ラバーソウル』『レボルバー』『レット・イット・ビー』
読んでてハッとした。
ビートルズを聞き始めて30年、なんで気付かなかったんだろう。
当たり前のように受け入れていた。
『なすがまま』じゃなくてよかったと桑田佳祐は語るが、
『恋のゴム草履』『それゆけ二丁拳銃』といったタイトルになっていたら
日本でのビートルズ人気は70年代以後ガタ落ちになっていたんじゃないか。
カタカナに置き換えたとはいえ、アルバムは彼らのつけた名前のままにしたというのは
レコード会社の英断だった。
 
その理由については触れられてないけど
たぶんこれは簡単なことで
その当時小型のシングルは子供がお小遣いでも買えるような値段で、
曲数の多いアルバムは大人の買うものだったからだろう。
シングルは誰でもわかるように、イメージしやすいように邦題をつけた。
そういう話をどこかで聞いたように思う。
 
『レット・イット・ビー』とそっけなくあって意味が分からなくても
大人の世界を垣間見るようで逆にワクワクさせた。
それが洋楽の原体験にあるかないかで大きく変わるだろう。
 
連載のページでは後半、ピンク・フロイドの『原子心母』について一言。
これはアルバムのタイトル『Atom Heart Mother』を邦訳したもので、直訳。
というか直訳でもこんな強引なことはしないだろう。
平仮名を抜いた疑似四字熟語。
でも、このわけわからなさが
牧草地に牛だけが写ったジャケット共にあるときのインパクトの大きさ。
このアルバムも30年聞き続けているけどタイトルは『原子心母』以外ありえない。
 
最近だと The 1975 の邦題が振るってるかな。
『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』
(I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful Yet So Unaware of It)
 
『ネット上の人間関係についての簡単な調査』
(A Brief Inquiry into Online Relationships』)
 
『仮定形に関する注釈』
(Notes on a Conditional Form)
 
直訳のようでいて、イメージの膨らむように少し言葉を補ってるんですね。
この匙加減がいい。