としまえんに行った夏

こんなことがあった。
中一の夏休み、祖母の誘いで新島で過ごすことになった。
祖母の親類の家に建てたばかりの離れがあって、
そこを借りることができて祖母と妹と三人で三週間ほど寝泊まりした。
僕と妹は毎日のように海で泳いで遊んだ。
祖母は敷物を敷いて砂浜に腰かけて、僕らが遊ぶのをずっと眺めていた。
ただずっと眺めていた。
僕らが振り向いて祖母の方を眺めると手を振ってきた。
 
滞在中は祖母の作るご飯を毎日食べていた。
外食することはほぼなかったと思う。
食堂があったとしても若者たちばかりで祖母にはうるさかっただろう。
そんなある日、たまにはとカップヌードルを食べることになった。
毎日どこか心の底で浮かれていた僕はお湯を入れるなり
読みかけの漫画があった寝室に持って行ってそこで食べようとした。
いつもならテレビのある居間で食べる。
そんな僕を見て祖母は一言、
「青森ではそんな食べ方をするのかしらね」
 
もちろん、青森の母はそんな育て方はしていなかった。
きちんとしつけられていたからこそ、
母のいない遠く離れた場所では自由に食べたかった。
ただそれだけ。
母と祖母の折り合いはよくなかったことを僕はなんとなく知っていた。
 
僕は祖母に言い返すこともなく無言で居間に戻って食べた。
それで祖母との関係が気まずくなったということもなく
海で泳いで、そんな僕らを祖母が眺めていて、
何事もなく普通に日々が過ぎ去って東京に戻る日が来た。
 
祖母の住む保谷で3日ほど過ごして上野から寝台車に乗って帰った。
朝早く、母がホームに迎えに来ていた。
初めて見る鮮やかな青い服を着て、立っていた。
 
世の中には割り切れないものがあると知ったのは
本の中だけではなく実際にそういうものがあると知ったのは
中一のあの夏だった。
 
(祖母はその10年後に亡くなった。
 葬儀の時、祖母は毎日のように祖父の眠るお寺さんに出かけ、
 掃除の手伝いをしていたのだと聞いた)