先週買ったCD #32:2021/05/17-2021/05/23

2021/05/17: diskunion.net
安全地帯 「ONE NIGHT THEATER 1985」 \1843
George harrisonジョージ・ハリスン ~ オールタイム・ベスト」 \1746
Caetano Veloso 「MTV Ao Vivo zii e zie」 \1067
Willie Colon 「El Baquine de Angelitos Negros」 \1843
 
2021/05/17: www.amazon.co.jp
Johnny, Lous & Char 「OiRA」 \2100
 
2021/05/17: ヤフオク
Humbert Humbert 「The Live CD」 \1950
 
2021/05/19: www.hmv.co.jp
Underworld 「Drift Series 1 - Complete」 \5850
スチャダラパー 「スチャダラ外電」 \440
スチャダラパー 「ポテン・ヒッツ ~シングル・コレクション」 \550
 
2021/05/19: www.amazon.co.jp
Madredeus 「Ainda」 \449
 
2021/05/20: TowerRecords 光ヶ丘店
(V.A.) 「Open Strings」 \3300
 
2021/05/20: tower.jp
Yellow 「1974 One Step Festival」 \2200
 
2021/05/21: diskunion.net
Yellow 「Yellow」 \2086
 
2021/05/22: BOOKOFF 吉祥寺駅北口店
DCPRG 「Second Report From Iron Mountain USA」 \510
The Surf Champlers 「Champloo A Go Go」 \510
 
2021/05/22: diskunion.net
近藤等則 × DJ Krush 「記憶」 \1100
 
2021/05/23: diskunion.net
想い出波止場 「Black Hawaii」 \1900
Chris Whitley 「Weed」 \580
 
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(V.A.) 「Open Strings」
 
先日ブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』を聞いていた時に
amazon であれこれ周辺の音楽を探っていて出会う、というかレコメンドされる。
1920年代中東(エジプト、イラン、イラク、トルコ)の
弦楽器の演奏家たちの残した録音と
その演奏にインスパイアされた現代の演奏家たちの新しい録音との2枚組。
ブックレットはなし、ジャケットの記載は曲目程度。
 
日本盤の帯に書かれていることでわかるのは他、
・『オネスト・ジョンズ』というレーベルから出たものであること
・1枚目の演奏家たちは
 アラブのウード、トルコのケメンチェ、ペルシャサントゥール
 といった楽器を演奏していること
 
それぐらい。
2枚目の現代の演奏家も、上から3組挙げてみると
Nechat Bey / Steffen Basho-Junghans / Kementchedi Alecco 
……と、正直全然わからない。
有名なギタリストなのか、中東音楽の専門家なのか。
 
帯には日本語、英語含めていかなる解説も付けていない、
とわざわざ断っている。
これはおそらく、1920年の中東という最小限の情報をもとに
先入観を持たずに聞いてほしい、
そして興味を持ったら自由に旅立ってほしい、調べてほしい、
ということなのだろう。
冒険の地図は自らつくっていくということ。
 
1枚目を聞く。
あるものは例えばドブロのような音が深く沈み込んで共鳴するギター
あるものは砂塵が弦を軋ませるようなバイオリン
……に類する弦楽器。
素朴な、おそらく世俗化されていない、伝承されたそのままの音。
ワールドミュージック化していない、商品化していない音。
セピア色の写真だけの埃まみれのアルバムをめくるかのよう。
王族の儀式・典礼向けの音楽なのか、庶民の歌に伴うものなのかも分からず。
アラビアンナイト千夜一夜物語のバックに流れるのはこういう音なのだろうか。
 
続けて2枚目を聞く。
意味もなくダンスビートに乗せるとかそういうことはしない。
どの演奏も真摯に向き合っているのがよくわかる。
奇を衒わず、弦楽器だけの演奏が多い。
ただし、多くの曲でいくつかの弦楽器を重ねている。
加えるとしてもパーカッションか、シンセなのだろうか背景音的な。
曲調も変わらないが、曲・演奏家によっては
どこかアイリッシュトラッドの香りがわずかにしたり。
演奏者の出自によるもの、
無意識のうちに出るかすかな手癖がそうさせるのかもしれない。
当たり前だけど、1枚目と比べて音は圧倒的にクリア。
解像度が上がって弦の振動がくっきり見える、
音の粒子が見えるというような。
 
輸入販売元はライス・レコード(オフィス・サンビーニャ)。
世界各地の面白い音の多くを扱っている。
ポルトガルのファド、アマリア・ロドリゲスやアナ・モウラ。
セネガルの Orchestra Baobab やマルチニークの Malavoi  
先日書いたリアノン・ギデンズによる Our Native Daughters など。
はたまた、「ザ・ラフ・ガイド・トゥ~」のシリーズだとか。
民族音楽がらみやピーター・バラカン推薦のアルバムを買おうとしたとき、
輸入盤を amazon で買うのではなく、
必ずここで日本盤が出ていないか調べることにしている。
作品の背景やアーティストの来歴など
詳細な解説がついていてかなり勉強になる。
長いこと、世界の良質な音楽を日本に紹介し続けていて頭が下がります。
毎月の新譜は全部買いたいぐらい。
この「Open Strings」もライス・レコードが取り上げてくれなかったら
僕も絶対出会うことはなかっただろう。
 
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Humbert Humbert 「The Live CD」
 
大学3年から数年間、翻訳で読める現代文学
片っ端から買い漁って読んでいた時期があった。
アメリカだとポール・オースターに始まって
南米に興味が広がって、ボルヘスやプイグ、ガルシア・マルケス
ロシア語専攻だったのでロシアの作家もあれこれ読んだ。
ウラジーミル・ソローキンやヴィクトル ペレーヴィン
最終的に修士論文はヴェネディクト・エロフェーエフで書いた。
20世紀文学の最高峰を夢中になって読んでいた時が
僕にとって人生最良の時だったのかもしれない。
バイト中だろうと帰省中だろうと
寸暇を惜しんで本のページをめくっていた。
 
そんな僕が一番好きな作家は? と聞かれたら
あれこれ悩みつつ、ウラジーミル・ナボコフと答える。
一般的には『ロリータ』で知られる。
ゴーゴリドン・キホーテ講義が捧腹絶倒という
古今東西の小説の面白みを知り尽くした博識にして
自ら書く小説は超絶技巧的。
なのにそこはかとなく滲み出てくる人間味。
ロシア語で書かれた『賜物』の蝶を追いかける子供時代、
英語で書かれた『青白い炎』のラストの一節。
ナボコフは亡命ロシア人という祖国喪失者であった。
そこには途方もない苦労と絶望があった。
 
そんな僕にとって
ハンバート・ハンバートという名前には引っかかるものがあった。
身の回りで聞いていた人たちは皆絶賛していたのに
ナボコフへの思いが強すぎて手を出しにくかった。
『ロリータ』の屈折しまくった主人公の名前。
知られている割に読まれていなくて、いざ読んでみると
全然期待していたものと違っていたという小説の典型例だったりする。
つまるところ、ただのロリコンじゃないんですよね。
20世紀という現代社会の病や矛盾の象徴。
ここを持ってくるか!?
 
本格的に聞き始めたのが昨年コロナ禍になってからで、
佐藤良成、佐野遊穂の夫婦2人だけで製作した
アコースティックなカバー、セルフカバー集
『FOLK』『FOLK2』の初回限定盤、プレミアがついて
どちらも5,000円以上したのを DiskUnion で入手。
その特典DVDがどちらも日比谷野音のライヴ映像。
前者は2人だけで後者はサポートメンバーが入っている。
これがまた素晴らしくて
2人の紡ぎ出す音楽の強さ、儚さ、優しさに涙が出そうになった。
僕の中で今一番ライヴに行きたい、
リアルに聞いてみたいアーティストになった。
同じく、二人だけで演奏したライヴアルバム『WORK』の初回限定盤、
特典CDの爆笑MC集も別な意味で涙が出た。
 
ロックでもなくフォークでもなく、童謡やみんなのうたでもない。
その魅力は何とも掴みどころがない。
頼りないようでいて力強く、力強いようで頼りない。
天真爛漫なようでいてシニカル、シニカルなようで天真爛漫。
いい曲をかいて演奏する夫婦デュオ以上のものがある。
 
これはもっと聞きたいとライヴアルバムを探していたら
会場限定で発売していたものがあるという。
でもこれ、当面買いに行くことができそうにない。
たまたまヤフオクに出ていたので
彼らからすれば不本意な入手の仕方になるけど、買ってみた。
”おなじ話””おいらの船”といった代表曲や
たまの”さよなら人類”といったカバーによる全10曲。
2人の歌、演奏にギター、サックスでゲストが2人参加している。
ほどよいサポートでここぞというところで加わっていく。
聞き心地のいいライヴアルバムだった。
 
”国語”は皆の使っている言葉がよくわからないという内容の歌詞で、
アイデンティティがわからない、イデオロギーがわからない、
と挙げていく中でポロッとアベノミクスが分からないと入っていたりする。
そういう市井の時代感覚もまたいいなあと。
 
しかしやっぱ稀代の名曲”おなじ話”
RCサクセションで言ったら”スローバラード”なみの必殺の曲。
コンサートの本編を”アンパンマンマーチ”とか
彼らには全然無関係な曲を10回連続でやって終わったとしても
アンコールで”おなじ話”をやったら皆、それだけで
全てリセットされて満ち足りた気持ちになってしまうんじゃないか。
それぐらいの名曲。
そんな曲を持っている人たちは強い。
圧倒的に強い。
 
それはそうと、日本の翻訳文学界では
ナボコフと言えばいまだにロリータなのだろうか。
 
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The Surf Champlers 「Champloo A Go Go」
 
上でライスレコードのことを書いた。
「ザ・ラフ・ガイド・トゥ~」というシリーズの日本盤を出している。
世界各地の音楽の現代的な視点でのサンプラーというか。
僕は最初、タンゴにはまっていたときに
新宿DiskUnionのラテンブラジル館で2枚、中古で見つけて買った。
「~タンゴ」には Tango Negro Trio / Rodolfo Mederos / Tango Siempre
「~タンゴ・リヴァイヴァル」にも Tango Siempre や Tango Crash など。
新しい世代のタンゴ。ピアソラじゃないんですよね。
僕はここを入り口にして現代タンゴの世界へと入っていった。
このシリーズ、ライスレコードのサイトで今検索すると272件。
キューバン・ストリート・パーティ」「アラブのカフェ・ミュージック」
「ペルー・レア・グルーヴ」などとどれも面白そう。
 
その最新作で6月に出るのが「ザ・ラフ・ガイド・トゥ・知られざる日本音楽」
一言で言えば民謡クルセイダーズ系とでもいうか。
各地の民謡とヒップホップやエレクトロニカといった別ジャンルを掛け合わせ音楽のようだ。
収録されているアーティストのことは全然知らなかったんだけど、
その中のひとつに The Surf Champlers という名前があって印象に残った。
サーフミュージックと沖縄のチャンプルー。
 
それが火曜か水曜で。
土曜日、荻窪の床屋で切った後に吉祥寺で昼を食べようとする。
11時前でどこも開店前だったので暇つぶしにブックオフに入ったら
510円のコーナーになんと
この The Surf Champlers 「Champloo A Go Go」  があった。
何という偶然、ともちろん買った。
 
KENJI YANO という方の一人ユニットのようだ。矢野憲治かな。
ギター、ウクレレ三線など全部の楽器を演奏。
スペシャル・サンクスのところに何人か沖縄音楽の演奏家の名前が挙げられていた。
僕はこの辺り全然詳しくないんだけど
”唐船ドーイ” ”ラッパ節” ”ヒヤミカチ節”といった曲を演奏している。
そしてこういった企画では定番の”James Bond Theme”も。
ここには収録されていないが、
「ザ・ラフ・ガイド・トゥ・知られざる日本音楽」の方では
これまた定番の”Misirlou”が収録されていた。
 
1995年の作品で、他にこの名義でのアルバムは出ていないようだ。
ジャケットがどこか安っぽかったので特に期待してなかったんだけど
聞いてみたら案外よかった。
身の丈に合った心地よさがあった。
沖縄の民謡をギターを中心としたアレンジで聞かせる。唄は入っていない。
こういうのありそうでなかったな。
サーフギターというとテケテケしたのを思い浮かべるけど、
どっちかというとハワイのスラックキーギターの方が近いか。
 
ぶっちゃけ、デモテープのような完成度だと思う。
浜辺の風を肌に感じるというよりも、路地裏にこもる熱気のべとついた感じ。
もっと演奏の達者な方、アレンジの優れた方はいる。
それこそ、久保田真琴が同様の趣旨のアルバムを作ったら
名作が生まれそうな気がする。
でもこれはこれでいい。
テレビの向こうのリゾートの沖縄ではなく、ストリートの沖縄。
この夏、何度も繰り返し聞くと思う。
 
前半は上記の曲がひとつながりになっていて、
後半はもう一度、一曲ずつばらされて収録されている。