文化祭の前日、屋上で

仕事が忙しくなって、打ち合わせばかり。
そのセッティングと議事録と。一日が一瞬で終わる。
何気ない瞬間に昔のことを思い出す。
今はもういろんなことを忘れてしまっている。
細部がぼやけてしまっている。
それでも思い出せることがある。
 
こんなに忙しくて疲れてて、
そんな自分が一番ハイテンションになった時はいつだろう?
我を忘れて、周りの人たちとの一体感が得られたとき。
あれは高3の文化祭の前夜祭か。
それ自体で何がイベントとしてあったのかはもはやわからないけど、
皆遅くまで残っていた。
夏前かな。既に日は暮れて真っ暗になっている。
 
屋上の渡り廊下に皆集まっているのに気づいて、
他の皆も階段を上っていく。僕も上っていた。
ねぶたを跳ねていた。
クラスも男女も関係なく。
ねぶたなのに隣の人と手を握って輪になって、ぐるぐると回る。
何の音楽もなく、歌うでもなく、ただ喧噪だけがあった。
その中で自然とリズムが生まれて、輪の回るスピードが速まっていく。
誰かが来ていた半袖シャツを脱ぎ捨てて、僕もそうした。
なのに女子も嫌がらない。
 
輪が速まった果てにギュッと一点に集約されるような一瞬があって、
リズムの高まる一瞬があって、
実際に僕らは一点に向かって飛び込んで体を寄せ合ったかもしれない。
その瞬間、思わず歓声を上げたと思う。
バラバラになって、フラフラになって、
それでもまたすぐ別の隣の人と手をつないで輪になって、
速まってと繰り返した。
単細胞生物が集合と離散を繰り返すような、
それが DNA に書き込まれているような。
 
いつまで続いただろう。
何をきっかけに終わったのだろう。
潮は引いたのだろう。
自転車に乗って帰る。僕は誰かと一緒だったのだろうか。
さっきまでの出来事がいったいなんだったのか、話し合っただろうか。
そういうところは何も思い出せない。
あの場に誰がいたのか。何人がいたのか。
 
確かにあの瞬間、僕らには魔法がかかっていた。
そしてその魔法が壊れてしまうのは早かった。
あの日のことを思い出せる人は他にいるだろうか。
思い出せる人は何を思うだろうか。
この文化祭が終わってしまうとあとは受験勉強しか残されていない。
楽しかった日々の終わる、最後の花火のような。
そんなひと時だった。