色彩の感覚

ある種の共感覚は自分の心の状態を色彩や線の形で表せるのだと思う。
色鉛筆のセットとスケッチブックを与えられたとき、
オレンジと灰色を手に取って
このたまらなくやるせない気持ちはこんなふうな形をしています、というような。
それは「普通」の僕らからすればなんだかよくわからないものになる。
 
しかし、その心象風景を一目見て言い当てられる人も世の中にはいるだろうし、
その心象風景を毎日、一日一枚描き続けて何十年にもなるという人もいるだろう。
 
気持ちというものの多くは言葉でも言い表すことができない。
まして色や形では、と思い込んで生きてきた。
もしかしたら小さい頃からその方面を伸ばしていたら
一つの能力として開花するのかもしれない。
 
画家としてある種の抽象的絵画、
何を描いているのかさっぱりわからないのに
見る人の心に何か強く引っかかる絵を描くとか
ある種のセラピーを行えるようになるとか。
相談者に簡単に描いてもらった絵で
心身の不調を診断するようになるというような。
 
ある種のテロリストは不安をかきたてる、
狂暴な気持ちを煽る色彩の組み合わせを全世界に拡散させる。
受け取った狂信的な若者がそのパターンをペンキで広場の壁に殴り書きをする。
そのテロリストが捉えられたとき、
若者たちが塗った様々な狂った色彩のペンキは全て白で塗りつぶされる。
 
その共感覚を持った人の知覚、感覚が本人の手を離れて暴走することもあるだろう。
全ての色、形が暴力的に襲い掛かってくる。
心が引き裂かれるように感じて、いずれ発狂する。
そういう状態を作り出す薬剤の研究というのもあるのかもしれない。
あるいは逆に、どんな色彩も形も意味をなさないように知覚を退化させる薬剤。
脳の特定の部位の機能を極端に低下させる、あるいは興奮させる。
 
そういう状態を鎮めるために患者の閉じ込められる部屋は
全てが白く塗りつぶされ、他に全く色彩を持たない部屋なのか。