父の話

土曜に叔父の家を訪れたとき、父の話を少し聞いた。
叔父も父もかなりの実力を持つテニスプレイヤーだった。
今となっては母も大半を処分してしまったが、
青森の実家には昔、父が参加して
優勝した社会人の大会のトロフィーが何十本もあった。
たまの休みには山奥のテニスコートに行って仲間たちと楽しむ。
まだ小学生に入る前の僕も何度か連れて行ってもらった。
 
その父はある年、国体の青森県代表に内定していたのだという。
しかし仕事の都合で出場できなかった。
それ、すごいことだなと思った。ふつうあり得ないぐらいすごい。
なぜ母はそのことを話さなかったのか。
話してはいても僕が忘れていたのか。
母はテニスをするわけではなかったので
僕が大人たちのテニスにくっついていくときも母は家で留守番をしていた。
 
祖母は新島の出で、僕も中1の夏休み、
祖母と妹と3人でひと夏過ごしたことがある。
親類の家の離れを借りて。
その時お世話になった祖母の姉の方としばらく年賀状のやり取りをしていたが、
その数年後亡くなられた。
祖母も僕が社会人になってすぐ亡くなってしまった。
また新島に行ってみたいとは思うが、頼るところはなく
一般の観光客として訪れることになる。
 
叔父と父は夏休み、子供たちだけで船に乗って新島に行って来いとなった。
まだ小さくて船旅が心細い。帰ってきたとき祖母にしがみついた。
そして大人になって20代後半。
叔父と父は1週間の休みを合わせて新島に行った。
2人とも酒飲みだったから、船に酔うぐらいならと
乗船前から一升瓶を持って飲んでいた。
島に着いてからも海で泳ぐことはなく、飲んでばかりだった。
 
父の話をしてくれる人も少なくなって
今身の回りでは叔父だけになってしまった。
土曜の夜、家に帰ってきてふと、そのことに気づかされた。