知らない町

時々夢の中で、ああ、ここは知ってる、いつもの町だな、
という場所が出てくる。
毎晩のように出てくるわけではない。
いつも全く同じ、というわけではない。
目が覚めて布団の中でうつらうつらしているとき、
ああ、いつだったか見た夢と同じだったな、と思う。
実際には大きく違っていたとしても
何か大事な一点が一致していて同じだと思っている。
風景ではなく、呼び名ではなく、ある種の感触のようなもの。
 
それが今日の朝は、
ああ、初めての町だな、と夢うつつの中で思った。
もしかしたらこれまでに見た夢の中で似たような景色を歩いたかもしれない。
それでも僕はその大事な一点が違うと捉えて新しい町と思った。
 
なぜそんなことが起こるのか。
自分の中で何かが変わったのか。変化を迎えたのか。
それとも単なる気まぐれなのか。潜在意識の。
そこに特別な意味というものはなく、
ああ、ただ、初めての町だった、というただそれだけ。
 
とりとめなく歩いて、とりとめなく人が出てきて、
とりとめなく出来事があって、気が付いたら目が覚めている。
毎日それを繰り返している。
何も始まらないし、何も終わらない。
その町がどこまで続いているのか、どこで終わるのかもわからない。
ただそこに町があるというだけ。
 
他の人が夢の中で見る町はどうなのか、ということを思う。
知らない町なのか、現実に住む町と同じなのか。
多くの人が夢の中で集まる架空の、共有の町があるのか。
その町に僕一人だけが入れずにいるのか。
誰かの見る夢の中の知らない町を現実の僕は生きているのか。