小さなとき、冬になると外のいたるところが遊び場になった。
全てが深い雪で覆われて、道路と庭の、庭と空き地の境目がなくなった。
家や物置やガレージといった建物があるところ以外は全て、だった。
もちろんこの家には近づかない方がよさそうだと感じ取ったり、言われたりすることもあったが、
家の周りは基本的に自由に行き来することができた。
夏の雪のない時期には他人の家の裏側など入りにくい。
でも雪が高く積もってブロック塀よりも高くなっていたら、
そこはもうそれだけで公共の空間になったような気がしたものだ。
時々その家の大人たちに声を掛けられるけど、
屋根から落ちてくる雪に気を付けるようにとか、
踏み固めてないところに穴があるかもしれないから落ちないようにとか、
その程度だった。
おおらかな時代だった。
そして80年代半ばのあの頃は、住宅地とはいえ空き地が多かった。
空き地はさらに、小学校のグラウンドや田んぼにつながっていた。
その全てが雪で覆われていて、
田んぼに出るとそれが遠くまで広がっていて、地平線のかなたまで続いているように感じられた。
その地平線は八甲田山の山並みによって遮られていた。
吹雪であっても子供たちは遊ぶ。
全身をスノーウェアに包んで。
冬は日が暮れるのが早く、すぐ暗くなる。
真っ暗になった頃家に帰る。
吹雪がやんで、空は分厚いどす黒い雪雲に覆われていることがある。
単一の層が広がっているのではなく、
無数の巨大な雲の島がゴツゴツとぶつかり合ってせめぎ合っているような。
そんなときに聞こえる大きな音がある。
風はないのに、遥かかなた上空でゴオンゴオンと雲が行き交う音。
聞こえたときには必ず立ち止まって見上げた。
近くを街灯がポツンと灯っている。
わずかに雪が舞っている。
空は真冬の海のように静かに荒れ狂っている。
僕は夜のその音を知っている人だけが、津軽の冬を知っているのだと思う。
毎日のようにそうだ、ということはなく聞こえない日の方が多い。
猛吹雪でそれどころじゃないという日もあるし、珍しく晴れている、そんな日もある。
その音はそこまで大きくはない。
聞くというよりも感じる音。
下界の人間の営みとは無縁に鳴り響く音。
雲のぶつかり合う音。