JAGATARA『ごくつぶし』

JAGATARA の代表作4枚(『南蛮渡来』『裸の王様』『ニセ予言者ども』『それから』)と
ベストアルバム(『西暦2000年分の反省』)が
昨年の裸のラリーズのまさかの再発に続き、久保田麻琴リマスタリングで紙ジャケ再発。
完全生産限定盤だというので、もちろん発売日に全部入手。
ファンク、パンク、アフロ、フォーク、ジャズ、様々な音楽を呑み込んで
ヴォーカル:江戸アケミの思い描く <向こう側> を音にする。
もうこんな人は、こんなバンドは出てこない。
 
「もうかがまんできない」や「都市生活者の夜」
JAGATARA は一度聞きだすとズブズブとはまり続ける。
江戸アケミはこのままだと俺たちは、日本は、地球はダメになる。
それを常に本気で言い続けてきた。
今の2023年をその目で見たら、なんていうだろう。
そういうの全てひっくるめての ”心のもちようさ” という諦念の重み。
この今だからこそ、彼の言葉は心に染みる。
 
『ごくつぶし』を久しぶりに聞いた。
1989年のメジャーデビュー作『それから』の後、同じ年に出た。
1990年に江戸アケミが亡くなるので
生前最後に発表されたアルバムということになる。
こちらもリマスタリングしてほしかった。
 
『それから』が名刺代わりにJAGATARA の多様な音楽性を1曲ずつ
コンパクトにまとめたものだとしたら
『ごくつぶし』は『裸の王様』『ニセ予言者ども』といった充実期同様に
10分を超える長尺の曲が2曲(プラス、短い曲がアンコールのように1曲)。
いくつかの曲を組み合わせて作った組曲のような。
あるいは The Doors の各アルバムに1曲ずつ配された長編抒情詩
”The End” や ”When Music Is Over” のような。
 
こういった変幻自在の長い曲の方が JAGATARA の本質のように思う。
ギタリストの OTO を中心とした演奏者の足腰が鍛えられているから、
いろいろ考えて曲を構成しているから、
反復リズムの曲がいつまでも聞いていられるぐらい心地よいというのもあるし、
江戸アケミの精神の揺れ具合、心の中を通り抜けて移ろうものを描くには
それなりの長さを必要とするということでもある。
ああ、このとりとめないけど、行き当たりばったりではない感じ。
これが JAGATARA なんだな、と思う。
 
前半の20分を超える大作”SUPER STAR ?” はベストにも入っていて有名だけど、
後半の”DOOR” と”MUSIC MUSIC” のライヴ感がいいんですよね。
こちらはスタジオで一発どりなのだとか。
JAGATARA 最後の才能のひらめきがこの2曲なのだろう。
 
”DOOR” は昔からライヴでやってる曲で、1980年代前半の演奏となる
ライヴアルバム『君と踊りあかそう日の出を見るまで』の方がいいとは正直思うが、
JAGATARA のその後を思うと『ごくつぶし』での江戸アケミの声には
いろいろ考えさせられるものがある。
楽しいのでもなく、悲しいのでもなく、
自分自身の喜怒哀楽を排して、虚無の中にあって、
歌の中の喜怒哀楽を演じている。
そんなふうに僕には聞こえる。