幸福

忙しかった一週間が終わった。
三歩進んで二歩下がったり、二歩進んで三歩進んだりを繰り返して
どうにかこうにか一山超えた。
いい仕事ができたかというともはやよくわからない。
ドシャメシャになりながら一区切りとなる期限の日を迎えた、というだけ。
なんにせよ、金曜の仕事が終わった。
 
ウィスキーの水割りに入れるレモンがなかったなと近くのセブンイレブンに買いに行く。
歩道橋を渡る。
夕暮れ。昼間は暑かったけど、日が傾いて涼しくなっていた。
吹きぬける風がひんやりとしている。
ああ、それだけで、もういいやと思った。
何が得られたわけでもない。だけど何かから解き放たれることはできた。
自分は今、幸福だ、十分すぎるほど、幸福だ。
 
コンビニを出てまた歩道橋を渡る。
そんなことでいいのか、そんな簡単に幸福なんて言っていいのか、と思う。
歩道橋の上から通り過ぎる車を眺める。
いや、いいんだ、これでいいんだ。
風が冷たい。もうそれだけでいい。
 
目の前に5階建ての大きな建物。
もう3年ぐらい工事している病院が完成しつつある。
2年ぐらいはひたすら基礎工事で、クレーンが何台も稼働して
ずっと地面を掘り返しては地下何層分もの足場を組んでいた。
いつ終わるんだろう、何がどうやったらこの工程は終わりなんだろう。
歩道橋を渡る度にずっと気になっていた。
夜、それぞれの方向を向いて停止したクレーンを見ながら、
地面に空いた大きな穴を見ながら、ずっと気になっていた。
 
しかし、それがあるとき終わりを迎えて、
そこから先は早かった。
あっという間に5階建ての建物が出来上がっていた。
輪郭がぼんやり浮かび上がって、それが少しずつはっきりしていくように。
窓がはめられ、自販機も設置された。
 
秋にはオープンするのだという。
その病院の姿が周りの風景に馴染んでいくと共に
工事していた頃のことは忘れていくのかもしれない。
それもまたひとつの幸福なのだと思う。