大岡山の店からの帰りは環七を通る。
夜、暗くなっている。
高円寺の辺りか、道路に面して古い集合住宅のような建物が
いくつか並んで建っている。
もう誰も住んでいないのか、真っ暗でそこだけしんと静まり返っている。
ありがちな、スプレーの落書きで覆われている。
都営の「高円寺アパート」という名前を誰かから聞いたことがある。
老朽化で取り壊し待ちか。
1階はまだ店舗として使われているみたいで、
朝、大岡山に向かうときに通りがかると確かバイク屋が修理をしている。
見る限りこの一軒だけ。
彼らが営業を続ける限り、取り壊しできないのかもしれない。
……と思ったけど、何棟かあって
このバイク屋のために周辺の棟も残っているというのも変だから
全然別の理由が何かあるのだろう。
……実はまだ耐用年数を過ぎていなくて全然住めるんだけど
何らかの理由で住民が皆逃げ出したとか。
閉鎖したわけではないので、調べると入居者を普通に募集しているとか。
だとしたら、それはそれでなんかいろいろ恐い。
近くに住む子供たちは肝試しのため忍び込むんだろうな。
夏休みの思い出。
懐中電灯やスマホを手に3・4人のグループで1階から2階へ、さらにその上へと上がっていく。
集団で行って、残りの若者たちは隅の方で固まって息を潜めて待つ。
猛者は一人きりで最上階まで行く。
そこまでたどり着くと、証拠のためそこから見える写真を撮ってくる。
アパートだから多くはドアに鍵がかかっている。
でもいくつか、鍵を壊されたか開けっ放しの部屋があって中に入ることができる。
閉ざされた廊下を歩くのも怖いし、そういう部屋に入るというのも怖い。
足音がなんか多いとか。
閉ざされたドアの向こう側で何かが軋む音が繰り返されてるとか。
郵便ポストに人形が突っ込まれてるとか。
ドアの開いた部屋に入ると「人」の文字がたくさん書かれた紙が貼ってあるとか。
妻がある夜通りがかったときにはこの1階のどこかでクラブイベントのようなものが行われていたという。
周りが真っ暗な中、その一角だけ賑やかに若者たちが出入りしている。
それも、誰も知っている人のいない、薄暗い人が何人か紛れ込んでいたとかいないとか。
都営アパートでまだ取り壊していないということは、
都庁の職員が昼間定期的に見回りとか施設の点検とかで来るのだろうか。
昼間だとしても嫌な仕事だなあ……
何もすることがない管理人が常駐で一人住み込みとか……