夜遅くに帰って来ると自転車に2人乗りしている若者たちをよく見かける。
男の子が漕いで、女の子が後ろでしがみついていて。
男の子は背後の女の子に向かって話しているわけだから自然と声が大きくなる。
女の子の笑う声も大きくなる。
女の子は荷台にまたがるようにして座っていたり、どっちか片側に足を揃えていたり。
男の子は立ち漕ぎしていたり、普通に座っていたり。
2人してはしゃぎあったり、
女の子がしっかりとしがみついて頬を背中に寄せて2人は無言だったり。
どちらにせよ、楽しそうだ。
その時々で出会う2人がどんなであろうと、みな楽しそうだ。
ほんの少し特別な時間が流れている。
2人だけで過ごす夜がその先に待っていて、
そこに向かってゆっくりゆっくりと進んで行ってるのだから。
憧れる。
僕はこれまでの人生においてそんなことなかったし、
30過ぎた今、これから先もないだろう。
そう思うと、とても憧れる。
切ない気持ちにさえ、なる。
とても簡単なことなのにやらなかったこと。縁がなかったこと。
人生ってそういうのばっかりだ。
1度だけ女の子を後ろに乗せたことがある。
高校の1年生だったか。学校の帰りにみんなでどっか行って。その帰り。
たまたまそうなった。
僕はその子に対して恋心を抱いていたわけではない。
女の子を後ろに乗せるってのはこんなに重いものなのか、
全然軽いわけじゃないんだな。
そんなことを思った。
乗ってる間取り留めのない話をして、どっかに着いて、
じゃあバイバイってなって。
ただそれだけのこと。
その子はその後結婚して
今は遠くに住んでいると風の便りで聞いた。
あの日はよく晴れていたなあと今、思い出した。
僕が自転車の後ろに乗せたこと、今でも覚えているだろうか?