「僕」は「彼」と駅前の喫茶店で話している。
「彼」は「僕」が聞いているかどうかに関係なく、どうでもいいことをとめどなく話し続けている。
時々、ウェイトレスが「コーヒーのお替りいかがですか」とポットを手に現われる。
帰りの新幹線まであと2時間。どこかへ行くにも時間が足りない。
ここがどこで、どんな目的で来たのか。
「僕」と「彼」はどこへと帰ろうとしているのか。
それは最後まで明かされることはない。
少しずつ、少しずつ、ほのめかされていく。
「僕」はほとんど話さない。ただただ帰ることだけを切望している。
「僕」は「僕」でいろんなことを思う、考える。
漠然とした不安な気持ちを常に抱えている。
「彼」は饒舌なようでいて、同じことを何度も繰り返して話している。
ウェイトレスが何度も現われる。
「僕」は時間がループしてるのではないか、
あるいは止まってしまったのではないか、と考え始める。
なぜ、止まってしまったのか。
自分は死んでしまったのか、それとも世界が終わってしまったのか。
繰り返されていく話の中で、「僕」と「彼」との距離は少しずつ離れていく。
「僕」と「彼」とが同一人物なのではないか、そんな疑問が投げかけられる。
だとしたら「僕」が「彼」から離れていく、というのはどういうことか?
ラストシーンはこういう情景となる。
「僕」は「彼」を置いて、外に出る。
改札をくぐって、ホームに立つ。
やがて新幹線が到着する。「僕」は指定席を見つけ、座る。
新幹線が走り出す。
どこへと向かうのか、それはやはり語られることはない。
全てが光に包まれる。