「シャイン・ア・ライト」

土曜、六本木ヒルズに TOHO CINEMAS に
ストーンズのニューヨーク公演をマーティン・スコセッシが記録した
シャイン・ア・ライト」を見に行った。
http://www.shinealight-movie.jp/


10時20分の初回だったのに、そこそこ客が入っていた。
30代以上、ストーンズの好きそうな人たちばかり。


2006年の「Bigger Bang」のツアーのうち、
最大級の会場となるリオデジャネイロの野外コンサートを撮る計画だったのが、
監督がスコセッシに決まってから
ニューヨークのビーコン・シアターという小さな会場に変更されたのだという。
正しい選択だと思う。舞台も狭く、客席との距離も近い。
まるでクラブで演奏しているかのよう。
ミュージシャン同士の、観客との親密な空間が生まれていて、
それをすぐ間近で見ているような錯覚、つまり臨場感があった。
さすがスコセッシはうまいね。


長らく無冠の帝王だったマーティン・スコセッシ
2007年に「ディパーティッド」でアカデミー賞を受賞。
「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」といった70年代のドラマ、
近年だとレオナルド・ディカプリオが連続して主演した
ギャング・オブ・ニューヨーク」「アビエイター」が世間一般的には有名だけど
音楽系ドキュメンタリーのキャリアも充実していて、
あの「ウッドストック」で助監督、
The Bandの解散ツアーを題材とした「ラスト・ワルツ」では監督を務めてるんですね。
2000年代に入ってからは
Blues Movie Project」や Bob Dylan の伝記「No Direction Home」も手がけている。
(なお、スコセッシはストーンズの曲を映画に使うのが好きで、
「Gimme Shelter」はこれまでに2回、使用されている)


最初のうちはそのスコセッシが「監督」として舞台裏の場面に出てくるんだけど、
いざ演奏が始まってしまうと後はひたすら18台のカメラを駆使してストーンズをダイレクトに映し出す。
無駄がなくて、フレッシュでタイトなストーンズを見ることができる。
ステージ上の息遣い、無言のやりとりもきちんと拾われている。
どう切り取ったらストーンズがかっこいいか、スコセッシはきちんと分かっている。


矢継ぎ早のショットで繰り出される、始まるまでの段取り・準備・打ち合わせの場面。
セットが気に入らないミック・ジャガーマーティン・スコセッシのせいにし、
マーティン・スコセッシミック・ジャガーのせいにする。
セットリストが直前になっても決まらなくて、完璧主義者のスコセッシはやきもきする。
「1曲目は何をやるんだ?ギターのリフからか?ロニーかキース。キースだろうな。
 ミックの歌からだったら?カメラを2・3台、顔に向かって張り付かせないと」ってな具合。
結局、セットリストが届いたのは始まる直前。
たぶんぶっつけ本番でカメラを動かしていったんだろうな。


ライブはビル・クリントン元大統領のチャリティー・イベントとしての性格もあったようで、
ヒラリー夫人の母親とストーンズのメンバーが挨拶して写真、みたいな場面も出てきた。
ライブそのものもクリントン元大統領の前フリからスタート。
ヒラリー・クリントン民主党の候補になってそのまま大統領になっていたら
この映画、もっと別な性質を帯びたかもね。


演奏された曲目は以下の通り。
「Jumpin' Jack Flash
「Shattered」
「She Was Hot」
「All Down The Line」
「Loving Cup」(The White Stripes のジャック・ホワイトと共演)
「As Tears Go By」
「Some Girls」
「Just My Imagination」
「Far Away Eyes」
「Champagne & Reefer」(バディ・ガイと共演)
「Tumbling Dice」
「You Got The Silver」(キース・リチャーズがヴォーカル、しかもギターを弾かずに)
「Connection」(キース・リチャーズがヴォーカル)
「Sympathy for the Devil」
「Live With Me」(クリスティーナ・アギレラと共演)
「Start Me Up」
「Brown Sugar」(ここからアンコール)
「(I Cant' Get No) Satisfaction」


ホール・クラスの会場とあって、選曲が渋い。ツウ好み。
スタジアム・ライブでドッカンドッカン行くような感じじゃない。
最初が「Jumpin' Jack Flash」というのはお約束としても、そこから先は「そう来るかぁ」と。
さすがスコセッシが映画にするだけあるね。
78年の「Some Girls」からの曲が4曲と多いのが印象的。
70年代後半から今に至るまでを後期ストーンズとするならば、やはりこれが後期の最高傑作なんだろうな。
後半戦はさすがに代表曲ばかり。
「Start Me Up」以後の観客の盛り上がりっぷりと言ったら!
僕もその場に居合わせたかった。悔しい気持ちにさせるねぇ。
これってつまり、ロックのライブを描いた映画として秀逸ってことだよね。


撮影はやはり、ミック・ジャガーが中心となる。
セクシーに腰をクネクネさせて踊りまくって、
着てるものどんどん脱いでって肌を露出させて客席を煽りまくる。
いまだに世界最高峰のフロントマン。誰も超えられない。
60代とは思えないほどの身のこなし。贅肉一つなく引き締まって、動きにもキレがあって。
(それでいてロック界随一のビジネスマンでもあるのだからすごいよな)


なぜストーンズだけが60年代から続いているのか?
この問いが映画の中で何度か発せられる。
答えはこの映像を見ればすぐにも分かる。というか、答えは要らない。
ミックのシャウト、それを支えるキースとロニーのギターのコンビネーション。
これらが存在しない世界がそもそも想像できない。


途中、過去のインタビュー映像が挟まる。60年代と70年代を中心に。
ミック・ジャガーは例によってふてぶてしく、チャーリー・ワッツは寡黙な二枚目で。
60年代のキース・リチャーズの不良としてのかっこよさ、再認識した。
全てのことに対してくだらねえと嘯いてるような顔つき。パンクよりも10年早かった。


キースとロニーのインタビューにてかっこいい発言があった。
司会者:「キースとロニー、どっちがギターがうまい?」
ロニー:「もちろん、オレだろ」
司会者:「キースは?ロニーは自分だって言い張ってるけど」
キース:「ロニーならそう言うだろうな」(笑う)
    「俺たちは2人ともギターが下手だけど、2人揃うと最強なんだよ」


ストーンズのファンならば
このセリフを聴くためだけにも、「シャイン・ア・ライト」を見る価値がある。


ジャック・ホワイト、バディ・ガイクリスティーナ・アギレラ
ある意味今のアメリカの音楽を代表するこの3人、
三者三様の共演の仕方も映画のアクセントとして素晴らしかった。