和歌山出張2回目 その5(Pien)

夜は田辺市の外れにある「Pien」というイタリア料理屋の店が予約されている。
ものすごく分かりにくい場所にあって、車がなかったら絶対行けない。
周りに何もない田舎。どうしてこんな場所に?
食材に対するこだわりから、ここに落ち着いたのだろう。
http://www3.cypress.ne.jp/pien/


こじんまりとした店内とサンルームにテーブル席がいくつか。
初夏のランチのためなのか、小奇麗な庭にも丸いテーブルが出ている。
その中の1つに着く。
僕ら以外に客はなくて、もったいないなと思う。
これだけ田舎だといくら口コミがあってもはやらないのだろうか?と
思いきや、そういうことじゃなくて、
シェフの話を聞いたらディナーは原則一組しか受け付けないのだという!!
でもそれって特殊なこだわりによるものではなくて、
ただ単に納得のいくスタッフを見つけられず1人で切り盛りしているからとのこと。
応募は日々あるのだという。でも、なかなか「これは」という人材が現れない。
雇ってもすぐに辞めてしまう。
きちんとしたサービスを提供したいという当たり前の姿勢が
若者には頑固な「厳しさ」に見えるようで。
「キッチンはイタリア料理を極めたいという強い意志のある者でない限り雇わない。
 でないと足手まといになるだけだから。
 だけどせめてホールぐらいは・・・」
そうかあ、田舎に店を開くのは大変なことなのだな。


シェフは東京の店で学んだ後、イタリアで修行を積む。
日本に帰ってきて神戸や佐賀、各地のレストランやホテルを転々とする。
しかし、ホテルのシェフは予算やあれこれの制約があって自分の料理ができない。
あれこれ思うところがあって、7年前にここ和歌山で独り立ちしたのだという。


僕はこういうイタリアンやフレンチのレストランをよく知らない。
語るほどの経験はない。
でも、これまでの人生でここより立派な店に出会ったことはないし、
これから先の人生でもそうそうないだろう。
店構えのゴージャスさという意味ではなくて、シェフのもてなしの哲学として。
なぜなのか聞かなかったけどテーブルの上に、小さなガラスの器に炭が入っている。
一組しか取らないというのに、それがどのテーブルにも置かれているんですね。
テーブルによっては皿の上に炭が丸ごとだったり、ツルンとした小ぶりのカボチャだったり。
しかもそれがポーズで置いてるんではないことがヒシヒシと感じ取れるんですね。
一組しか取らないとしても、その眼差しは全てのテーブルに注がれている。


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この日のメニュー。()内は岡村が補足。


・お口はじめ
 (太刀魚のマリネ)


・地のタコと揚げ茄子 師マルケージのアグロドルチェで


・イタリア産有機米とエスカルゴのリゾット


・自家製パスタ
 イタリアから届いたポルチーノ茸 シンプル仕立て


黒毛和種熊野牛 秋津産有機バジルのペースト焼き


・デザート
 (洋ナシのコンフォート、カボチャのチーズケーキ、アールグレイのアイス)


・ドルチーニとカフェ
 (生チョコレートとシロップ付けのキウイ)


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おいしかったなあ。ただただそれだけ。
タコの柔らかさが、・・・・いや、難しいことは何も言いたくない。
ポルチーノ茸のリゾットは200年前のレシピそのままだという。


あと、丸いパンと灰色の薄いパンもおいしかった。
もちろん焼きたて。おかわりして黙々と食べ続けた。


イタリア産のビールとグラスワインを飲む。
店内は古いカンツォーネが流れていた。


食べ終えて店の外に出る。
シェフは帽子を取り、車が出るまでずっと玄関に立っていた。


帰りの車の中で下世話な話ながら、
毎晩1組、ランチで時間をずらして2組で生活が成り立つのかなあという心配をする。


22時過ぎ、ホテルに戻ってくる。
明日は和歌山駅まで送ってもらえることになった。
大浴場に入りに行く。僕1人、ゆったりと入る。
缶ビールを飲みながら「天外消失」の続きを読む。


部屋の中が暑いように思われて窓を開ける。
涼しい風が入ってくる。虫の声が聞こえる。
ベッドに寝そべって読んでいたらそのまま眠ってしまった。
午前1時過ぎに目が覚めて、布団の中に入る。