『ストーンズ・イン・エグザイル』

昨日の夜、吉祥寺のバウスシアターに
ストーンズ・イン・エグザイル』のレイトショーを見に行った。
副題は『「メイン・ストリートのならず者」の真実』


1971年、ストーンズは93%という不当な税金を逃れるために
イギリスを離れ、キース・リチャーズの借りた邸宅のある、南仏に移住。
そこにストーンズのメンバーやその家族、
ボビー・キースを初めとするサポート・ミュージシャンが集まり、
写真家や麻薬の密売人、様々な人間が入り乱れて
地下のスタジオで夜な夜なセッションを繰り広げる。
そして完成したのが1972年の2枚組『メイン・ストリートのならず者』
猥雑で荒削りなブルースやカントリーが雑多に並んで当時の評価は低かったものの、
今ではストーンズの最高傑作に挙げられる。


今年その『メイン・ストリート…』がデラックス・エディションで再発。
当時の未完成曲に対して40年近い時を経てオーヴァー・ダブを施し、
ボーナス・ディスクとして加えたのが話題になった。
今回のドキュメンタリーの公開は一連の作業の集大成なのだろう。
いろんな角度からこのアルバムを観る(聴く)ことができるようになった。


最盛期のストーンズはとにかくかっこいい。言葉にするだけ無駄。
周りに出入りする人間たちもダーティーな魅力を振りまいている。
時代の雰囲気が真空パックされたような。
なので良くも悪くもそれだけで成り立っている映画。
素材は当時の写真と8mmで撮影されたと思われるホーム・ムーヴィーだけ。
それだけでは足りないからと
現在のミック・ジャガーチャーリー・ワッツが登場して
レコーディングに使用したスタジオを訪れたり、
ベネチオ・デル・トロ、ジャック・ホワイト、シェリル・クロウ
マーティン・スコセッシ、ドン・ウォズらのインタビューを最初と最後に配置したり。
ドキュメンタリー映画としては凡庸な出来。


未完の『コックサッカー・ブルース』の貴重な映像として
熱狂的でセクシーなステージの模様が挟まれたりするが、断片的で物足りない。
ちなみに、音が全然よくない。
(監督のロバート・フランクは有名な写真家で、
 『メイン・ストリート…』のジャケットの例の写真のコラージュを担当している。
 これ、映画を見て初めて知ったのですが、8mmで撮った写真なんですね)


まあでも、ロックの最盛期は今どれだけ頑張ろうと勝てなくて
1968年から1972年までであって、
その最も美しい瞬間の1つ、後は腐って滅びゆく、
その最後の夕暮れのような瞬間がここに保存されているのは貴重。
ストーンズは向かうところ敵なしというか、
若さや才能、いろんなものが一緒くたになって思うがままに生きている。
楽器を手に映っている姿はとにかくふてぶてしい。


主役はなんと言ってもキース。
今は異教の魔法使いのようだが、この頃は正に悪魔のようだった。
ギターがギターに見えない。まるでそれ自体が生命をもつ寡黙な生き物。
手なずけて狩場に放つ時を待っている。


そのキースがこんな名言を吐く。
「ミックは計画的で、オレは朝起きてから考える」
「ミックがロックで、オレがロールさ」


チラシを見たら、キースの恋人アニタ・パレンバーグが
この歴史的なセッションについて、更なる名言を残していた。
「セックス、ドラッグ&ロックンロール。
 正しくはロックンロール、ドラッグ&セックスだったわ」

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ストーンズのメンバーでは誰が一番好きですか?
と聞かれたら迷わず、ブライアン・ジョーンズと答える。
しかし、ストーンズが成熟して一回りも二回りも大きくなったのは
ブライアン・ジョーンズがグループを追放され、失意の死を遂げた後からだった。
彼がいたままのストーンズだったならば
決して『メイン・ストリート…』は生まれることがなかっただろう。
そう思うと複雑な気持ちになる。
ストーンズ・イン・エグザイル』には
僕の気付いた限りでブライアン・ジョーンズに関する言及が一言もない。
ストーンズはその亡霊に惑わされることがなかった。
いや、この頃だけではなく、その後ずっとそうだ。
永久に抹殺されたかのようだ。


そしてアニタ・パレンバーグは最初、
ブライアン・ジョーンズが出会って、恋人となったのだった。