青森帰省再び その5

(28日(月)の続き)


弘前城公園までは歩いて10分もしないか。
重要文化財である青森銀行の古い建物の前を通り過ぎ、東側のお堀の前へ。
こんもりと満開の桜並木が何百メートルと続いている。
散り始めた桜の花びらが風に舞い、お堀の水面を真っ白に覆い尽くしている。
下ろしたての木綿のシーツのよう。それが漣に揺れる。たゆたう。
毎年見る千鳥ヶ淵の夜桜もきれいだと思っていたが、その比ではない。
植えられた桜の数と密度、矛盾するようだけど枝の広がりっぷりが違う。
これだけ豪勢に惜しみなく桜が咲いていたら、そりゃ全国から見に来るよなあ。


南から北へお堀に沿って歩いたのちに東門から入って、北へ。
芝生などあちこちでビニールシートを広げた集団が宴会を始めている。
秋田では「ババベラ」青森だと「チリンチリンアイス」を見かけ、
懐かしくなって買う。ひとつ150円と値上がりしている。
僕が子供の頃は100円だった。
昔はチョコレート味なんてのがあったもんだけど、今はリンゴ味があるようだ。
2輪車の上にアイスの入った金属の箱が乗っていて
お客さんが来ると蓋を開けてコーンにヘラでシャーベット上のアイスを盛り付ける。
たまにはおじいさんもいるけど、ほとんどがおばあさん・おばさんで
なので「ババヘラ」と呼ばれる。


露店の並ぶエリアに差し掛かると
嶽キミ(岩木山の麓で獲れるとうもろこし)の天ぷらや富士宮の焼きそば、
水笛、もっとオーソドックスに射的や金魚すくいにたこ焼きなど。
細工した飴が1個400円でくまモン
(抱っこちゃん人形型やぬいぐるみなどあちこちで見かけた)
リラックマやキティちゃんなど。
精巧ってほどでもないけど、それなりにしっかり作られている。
まさか機械で大量生産ではないだろうし、
誰かが手作業でひとつひとつ作っているのだろう。
内職のように。1個作るのにどれぐらいの時間がかかるのか。
1個作ってどれだけ報酬がもらえるのか。100円、いや30円ぐらいではないか…


名物のオートバイサーカスが大人700円、おばけ屋敷が600円。
年配の呼び込みの男性がマイクで延々しゃべりっぱなしなのが辺り一帯に響いている。
「お友達が大勢中にいますよ」とか「昨年とは違いますよ」とか。
こっそり中に入ろうとする子供がいると本気で怒鳴る。
この呼び込み、僕が小さかった頃にもあっただろうか? いたんだろうなあ。
入口の周りにはちゃちなおばけの模型が並んでいる。
スピーカーから中を歩く女の子たちの悲鳴が聞こえてくる。
彼らこそまさしく、全国を回っているのだろう。


津軽そばで有名な「三忠食堂」のテントに入る。
市内に店を構え、映画『津軽百年食堂』の舞台になったことで知られる。
テントの壁にも撮影風景の写真が掛けられていた。
時間が遅かったので残念ながら津軽そばは売り切れ。
中華そば、おでん、焼き鳥と生ビール。
どれも昔懐かしい、花見でよく食べた味。もうそれだけで満足。
焼き鳥はどこの肉なのか、柔らかくて甘いタレがかかっている。それが7本。
おでんはコンニャクが4枚? 玉子、白瀧、ゴボウ巻き、竹輪、厚揚げなど。
中華そばはチキンラーメンのような不思議な手作り感溢れる縮れで、
具はネギとメンマとチャーシューのみ。
スープはもちろん何の変哲もない醤油味。しかしふんわりとした優しい味わい。
地元の若い人たちも食べていたけど
老夫婦が何組か無言で、しかし互いにいたわりながら食べる姿が印象的だった。


店を出てまた歩く。大半が県外と思われる花見客だけど
小中高校生の姿も多い。学生服を着ているので学校帰りか。
ステージでは津軽三味線の演奏がなされていた。


有料(310円)のエリアへ。坂道を上っていく。
ここの広場もまたビニールシートを広げて宴会を始めている人たち。
心なしかこちらの桜のほうが咲きっぷりがいいように感じられる。
ピンクのしだれ桜もしだれっぷりがいい。
天守閣(弘前城史料館)へ。行列になっていて10分ほど入場待ち。
下の階は津軽半に残されていたあれこれを展示している。
1階は小型の大砲や旅籠などの大物。
2階は中心に城の平面図とガラスのケースに火縄銃や菓子皿や家老の人形像など。
3階は全国の城の写真。北は松前城から南は首里城まで。
壁の間に小窓が等間隔で並んでいて、
そこから桜を見下ろして撮る撮る写真がやはり一番きれいだった。


西側のお堀へと下りていく。
こちらは貸しボートがあって、若者たちがボートに乗っていた。
多くはカップルだったけど学ラン姿の男子高校生3人組なんてのもあった。
お堀沿いに南北に伸びた「桜のトンネル」を南へと歩いていく。
夕暮れ時。水面が夕陽を反射して黄金色にきらめく。
桜色の行灯が道の両端に並んでいる。
これが今市民が広告を入れられるのか、
1歳から小学生ぐらいまでの子供の写真と名前を載せているのが多い。
これが愛称や下の名前だけならいいんだけど、
フルネームだったりして趣味も披露していたり個人情報がダダ漏れで。
いいんだろうか。しかもまあやっぱそういうのってキラキラネームだったり。
居酒屋の広告や還暦祝いの報告辺りや
若いスポーツ選手の応援まではまだいいと思うけど。
友人3人組がポーズを取った記念写真や個人の運転免許の写真の切り貼りであるとか。
いったい何を目的としているのか…
というか受け付ける方も受け付ける方だと思わなくもない。
弘前桜まつり運営委員会?
これ、行灯ひとつに付きいったいいくらなんだろう。


ぐるっと一周したことになる。さらに園内を再度半周して
「根上がりイチョウ」というその名の通り
『エイリアン』の宇宙船のように根が地面から浮き出たイチョウの巨木と
「日本最古のソメイヨシノ」(明治15年)と
「日本一太いソメイヨシノ」(5.37m)を見て、弘前城を出る。