青森帰省再び その6

(28日(月)のさらに続き)


東側のお堀に沿って北から南へ歩く。
青森銀行記念館も閉館時間となって窓が閉じられていた。


18時。ホテルまで引き返す途中にあった焼き鳥屋「鳥ふじ」に入る。
吉田類の『酒場放浪記』が青森に遠征したときに
弘前市で訪れたふたつの店のうちのひとつ。
(もうひとつは「土紋」で、青森市で訪れたのは「鎌倉」だった)
桜まつりの時期だし、混んでて入れないかなと思いきや
かろうじて最後のカウンター席が空いてて滑り込むことができた。
その後来たお客さんたちはたいがい断られていて、
たまたま先客が帰った直後にタイミングよくガラガラと入ってきた人たちだけが
カウンターに座ることができた。さすが人気店。


店は初老のマスターがひたすら焼き鳥を焼き、
若頭みたいなのがカウンター上のガラスケースから
串に刺した生の焼き鳥を取り出してバットに移して「次の」ということで並べていく。
もうひとりさらに若いのが生ビールをサーバから注いだり
焼き鳥の皿を客席に運んだりしていた。
この一番若いのがバイトっぽく
電話の受け答えなど手際が悪くて時々若頭から注意されていたが、
うまく回っているときにはきちんとフォローしていた。
若頭を中心に店が回っている。焼き鳥屋の師弟関係かくあるべし。


花見の季節だけあって、カウンターやテーブルの客だけではなく
ひとつ1,000円の盛り合わせを持ち帰りで3つ5つ買っていく人たちが寄っていく。
これが元々予約していた人たちならいいけど、
いきなりふらっと頼みに来た人は1時間待ち。それでもよければとなる。
(もちろんカウンターやテーブルの客に対して優先で焼いてくれる)


食べたのは皮80円、レバー100円、ししとうベーコン巻160円、
名物の串カツ五色550円とかなり安い。
(焼き鳥・串焼きを揚げたもの5本を牛、砂肝、つくね、ねぎま、牛タマネギだったか)
田酒1合600円(これは昨日・一昨日青森市で飲んだときもこの値段だった)
その他、レバー、ねぎ焼き、もつ煮、生ビール。
タレではなく塩かな。薄味だけどしっかり肉の味がしてとてもおいしかった。
ねぎまや砂肝の串カツなんてのも初めて食べた。これもカラッとサラッとしていた。
レバーもモチモチ。皮にはタマネギが挟んであったのが珍しかった。


19時半に店を出て、土手町方面を歩く。
少しブラブラ歩くつもりが中三デパートを含めてどこもかしこも閉店している。
弘前の夜は早い。開いてるのは酒や食事の店ばかり。
地元のFM局のブースでは地元弘前を盛り上げようという大学生のサークルが
自分たちの番組の放送を始める準備をしていた。


弘前城に戻って夜桜を見る。
行灯がほんのりとピンク色に染まっている。
それがお堀の水面に反射する。桜の花びらが散って、揺れている。
こんもりと茂った桜の枝もまた白く浮かび上がる。
咲き誇ったままで永遠の命を得たかのようで、幻想的な風景になる。
昼同様、東門から中に入る。人だかりの多さは変わらず。
学生サークルがビニールシートの上で輪になって
大声でコールしながら飲んでいる。
夜は気温がぐっと下がるから、ダウンジャケットを着ている人たちもいた。
天守閣がライトアップされている。近くの橋の上に大勢集まって写真を撮っている。
天守閣に再度上る。相変わらず混雑していた。
中では満員御礼の美術展のように少しずつしか進まなかった。
のろのろ進む合間合間に小窓から夜桜を見下ろした。
暗闇の中に広がる満開の桜。
それもいいが、何よりも素晴らしいのは真っ暗な水面に行灯と共に映る桜だった。
これは田山花袋円地文子といった文人たちが語ってきたように
一生に一度見る価値がある。


ホテルに戻ってきて最上階の温泉に入る。
露天風呂が熱くて気持ちいい。
出てきてから製氷機の氷に「いろはす」を入れて飲みながら
この旅日記をまとめる。
午前1時に眠る。