『ミンヨン 倍音の法則』

昨晩は岩波ホール佐々木昭一郎監督の20年ぶりの最新作
『ミンヨン 倍音の法則』を観に行った。
http://www.sasaki-shoichiro.com/


10月末から公開していたけど忙しくて観に行けず。
12月に入って1日の映画の日にようやく。


主人公はミョンヨン。本名。
監督が見つけた無名というか素人の女性。たまたま出会った声に惚れたのだという。
夢の島少女』や『四季・ユートピアノ』の中尾幸代を思い出す。
子供の頃日本に住んでいたことがあって、大学も早稲田に留学していたため日本語を流暢に話す。
英語も話せて、三か国語が入り混じってセリフを話す。
日本語で話したのちに英語や韓国語で言い直したりもする。
その彼女が、同じく三か国語を話す妹ユンヨンが
日本を旅することになったのをきっかけに自分も日本へ。
原爆の落とされた長崎を目指す。
その途中で彼女の祖母の友だちだったという日本人女性の戦時中の辛い体験へと入り込む。
佐々木昭一郎らしい幻想的な場面が妙にリアルな風景の中に溶け込んでいくんだけど、
最初の方でこれは夢なのだとはっきり示される。


うーん、つまらなかった。20年のブランクは大きかったというか。焼きが回ったというか。
佐々木昭一郎の残骸。
話が取り留めなさ過ぎて、それを夢なんて言われてしまうとなんだかなあと。それが2時間20分。
徹底的な違いは、フィルムじゃなくデジタルに変わったことで
映像のあの独特な水気の多い質感が皆無になったこと。
タルコフスキー佐々木昭一郎かってぐらいの。
一方でやろうとしていることは何も変わっていない。
瑞々しい感性を持つ若い女性が世界という道に出会い、それが美しい音や音楽になる。
なんかなあ、デモテープを見ているようでした。
素人役者は皆、セリフが棒読みで興ざめだったし。


反核反戦という直接的なメッセージも浅かった。
というか、この人からは聞きたくなかった。
ずっと気になっていたテーマだったんだろうけど、
昔の佐々木昭一郎ならば映像で語ったはずのものが今やセリフで説明していたりする。
なんだかなあとこれも興ざめだった。
これはもはや自己満足ですよ。


佐々木昭一郎の新作ということで混んでるかと思いきやそれはなし。ガラガラだった。
話題にもなってない。それもよくわかった。
僕としてはもうこれはなしにしたい。
忙しい日々が続いて、見逃した方がよかった。
そして「いつか『ミンヨン 倍音の法則』」と思い描いている方がよかった。


付記:
プログラムはあれこれいろんな立場の人が語っているが、読む価値があったのは
ミンヨンとユンヨンが日本について自分で書いている文章ぐらいだった。