東京の雪

朝起きてゴミを捨てに行くと雪が降っていた。
外はまだ暗くて、街灯に照らされて白い粒子の群れが斜めに差し込んでいた。
木曜は雪と前から聞いていたので特に驚きはなく、
案外暖かいなと思いながらその後駅まで歩いた。
フロントガラスをうっすらと覆っている。


雪が降っているからといってその冬で一番の寒さかというとそうでもない。
もっと寒くて凍えそうなのに空がよく晴れているということもある。
むしろ暖かく感じるのが雪というもの。
青森だってそうだ。冬はずっと雪だから、寒かろうが暖かろうが降っている。


東京で降った雪の中で最も印象的だったのは
学生時代の昭和記念公園。97年か98年か。
映画の撮影の下見で行って、ものすごく広い円形の原っぱを横切っているときに
半分過ぎたところで降り始めた。
それまで何もないただの広場だったのが、今や真っ白な空から次々に舞い降りてくる。
先を行くにも引き返すにも遠い。降られるがままにした。
視界の端の方で小さな子供を抱きかかえた母親が出口に向かって急いでいた。
平日の朝、他に誰もいなかった。
その時は確か大雪になったのだと思う。
まだ電車の動いているうちに立川から一駅乗って国立に帰った。


会社に着くと既にやんでいた。
やはり寒々しく感じる。雪のない空の下の方が。
改札を出てエレベーターを上り、地下道を歩く。
その時からいつもより寒くて、ああ、雪は過ぎ去ったんだなと気づく。
地上に出て、高層ビルの背後に灰色の空が広がる。
コートのポケットに両手を突っ込んで背中を丸めて歩く。
風が吹きすぎる。
いつも通りの朝に戻っていく。