最後に海水浴をしたのはいつだろう。
もはや思い出せない。
自主映画の撮影やドライブで海辺には出かけたときに、足首だけ浸るということはよくある。
しかし、海パン一丁になって海の中で泳ぐというのは、もしかしたら10代が最後だったかもしれない。
それもどこなのか。青森の海なのか、東京近郊の海なのか。
モワッとした真夏の空気。真夏の白い雲。
寄せては返す波がどこかぬるい。でもそれが気持ちいい。
足の裏が砂の中にのめり込む。指の間をのっそりと砂が流れる。
足首の辺りを波が通り過ぎていく。
それが太腿になり、腰の下になり、思い切って飛び込むよりも先に波しぶきが顔にかかる。
ドロッとした海水が口の中に入って塩辛い。どこか生臭い。
あるいは鼻の中に入ってむせる。
波に身を任せる。
ゴーグルをしてないので目がヒリヒリする。
ほんのわずかな間、目を開ける。
濁った水の中に海藻の切れ端や打ち捨てられたビニール袋が浮かんでいる。
しばらく泳いで、それ以上楽しいことは特にないということを思い出す。
誰かと一緒にいたら、はしゃぎながら海水を掛け合うか。
それが男性だったら背後から倒したり引っ張ったりはするだろう。
不意を突いて驚かれて、今度はこちらが仕掛けられる。
砂浜に戻って順番を待ち、一度シャワーを浴びる。目の辺りを洗い流す。
用意していたビニールシートに寝転がる。
海の家からは賑やかな音楽が聞こえる。最新のヒット曲がくぐもった音で。
ジリジリと日差しが照り付ける。
めんどくさいと思って日焼け止めは塗らない。
どうせあと少ししたら着替えるのだと。
風向きが変わる。あるいは何曲かが終わる。
起き上がり、最後にもう一度波の中に入る。
足首ぐらいで十分な気持ちになる。
もう一度シャワーへ。バスタオルで全身を拭いて短パン、Tシャツ、サンダルに着替える。
海の家でラーメンや焼きそばを食べるかもしれない。
あるいは車に乗ってもっと遠くのところで食べるかもしれない。
潮風で肌がべとべとする。
子供たちが砂の城をつくり、ビーチボールを投げ合い、貝殻を拾う。
クラゲを石でぐちゃぐちゃにする。
カップルが空気で膨らませる二人乗りのボートを波の上に浮かべている。
水着にはなるけど、決して海の中には入らないまだ若い母親たち。
サングラスをしたヒップホップな若者たちが真っ黒に肌を焼いている。
どんなに拭いても、拭っても、砂が車の中に入り込む。
エンジンをかけて、サザンのベストの続きを聞く。
海辺から遠ざかっていく。
それは夏から遠ざかるということでもある。
帰りの道が混んでいる。皆、家路につこうとしている。