「世界の終わりに」撮影あれこれ(後編)

上総湊の海水浴場(正しくは海浜公園)にて撮影。
いつ来てもここは人がいない。とてもいい。
僕のような「人気の無い海」フェチにはたまらない場所だ。
これまではいつ来てもだだっ広い砂浜が広がっているだけだったのに
再開発でも行われるのか今回は砂浜全体が柵で覆われていた。
ありがたいことに波打ち際は柵で囲まれてなかったので撮影は可能。
海ほたるで散々吹いていた風も、こちらでは穏やかになる。
「on fire」の撮影のときは風に泣かされたので、地形の関係ではなくて
単なる時間帯やタイミングの問題か。


シンタロウの運転する車が到着。ツツミ君一家も遅れて合流。
(隣の海水浴場でずっと待っていたらしい。申し訳ない)
ツツミ君のところの子供も今は2歳。
そういえば去年の夏、三浦半島の海岸でばったり会ってるんだよなあ。
あれには驚かされた。


新人ワタナベ君にクマの着ぐるみを着せる。
クリーニングしてなかったのか、相当匂いがきついらしい。
夏場に撮影していたら大変なことになった。


小道具としてフリスビーを2種類ハンズで買って持ってきたのだが、
三角形の骨組みだけのヤツは早々に駐車場の木に引っ掛けて大変なことになり、
回収できた後も結局すぐ海辺で波にさらわれた。
もう1つの普通のフリスビーも海の中へ。
シンタロウが男気を見せて靴と靴下を脱いで波の中に飛び込んでいった。


撮影はつつがなく終わり(というか分量は少なくしておいた)、
夕暮のシーンの撮影まで2時間近く空きができる。
この時間帯にはA班(僕ら)はこの場所にいてこのシーンを撮影して、
その一方ではB班は移動中で、というような進行表を作成して、
なおかつどんどん前倒し前倒しで進めていく。
自分の作品で撮影していると周りの人たちのペースを構おうとせず、
「のんびりやる」という感覚もなく、
ひたすらロボットのように撮影という場を突き進もうとする。


焚き火やろうぜと僕が言い出し、「わー、やろうやろう」と盛り上がる。
「燃えそうなもの」ってことで雑誌や古新聞を探しに行くが見つからず。
竹や木切れだけはたくさん浜辺に打ち寄せられている。
前日雨が降ってるので木切れも湿ってなかなか火がつかないのではと思うものの、
ツツミ君がなんと未使用のビール券を取り出して
「この紙質は燃えやすい」とライターで火をつける。
焚き火の神様が男気を感じてくれたのか、ポッと燃え上がってそこから先は火が大きくなる。
どんどんいろんなものをくべていって、焚き火完成。
どこからともなく「焼き芋・・・」の声が上がり、後輩たち有志が車で買出しに行く。
スーパーを見つけ、さつま芋とアルミホイルとバターとなぜかみかんを買ってくる。
さつま芋をアルミホイルでくるんで火の根元へ。
こうなってくると「ハマグリ」「カキ」などなど要望が収拾つかなくなり、
再度買出しへ行くことになる。今度は僕も行く。
フランクフルトにチョリソーに、ハマグリ、ハンペン、そしてビール(バドワイザー)。
ハマグリ用にもちろん日本酒と醤油も買う。
ハンペンも焚き火で焼くためのもので、割り箸を通して火の近くの砂に突き刺し、
表面をこんがりキツネ色に焦がしたハンペンはおいしかった。
ハンペンと言ったらおでんしか食べ方を知らなかったけど、こういうのもアリか。


帰り道、車に乗っていると携帯がかかってきて、
「大変だ!」というので話を聞いてみると
「芋が焦げすぎて炭になってしまったからまた買ってきてくれ」というものだった。
ちょうどよく八百屋があったので道路を隔てて向かいの駐車場に車を停める。
タケオさんが車から出て通りを渡って買いに行く。
こっちに向かって指を1本突き出すので
「1本じゃ足りない」とこちらは指を3本突き出す。
さつま芋がびっちり詰まったビニール袋を抱えてタケオさんが戻ってくる。
指1本は「一袋」のことだった。


夕暮の海辺のシーンを撮り終えて無事、クランクアップ。
バドワイザーをゴクゴクゴクと飲み干す。
辺りはどんどん暗くなる。帰りのレンタカーを返すリミットは20時。
17時を過ぎて急いで火の始末をして(波打ち際の湿って重くなった砂を火に掛ける)
車に乗って上総湊を後にする。
日が完全に暮れるまで、駐車場では地元の学生か会社員なのか
20代初めぐらいの若者たち3人のグループがバスケをしたりスケボーに乗ったりしていて、
もう1つの別なグループがラジコンで派手な爆音を立てていた。


日曜の夜。東京・千葉へと戻る人たちばかりなのか
木更津方面へと向かう道路は車線も狭く渋滞となる。
あっという間に日が暮れて暗くなる。
取り止めの無い話をして時間を過ごす。
途中から車線も広がって車の流れがよくなる。
アクアラインに乗って海ほたるを通過。今度は素通り。
トンネルを抜けて羽田へ。先週と違って都心は渋滞とならず。
19時半には車を返すことができた。
みんなで蕎麦屋に入って夕食。ビールを飲む。


解散後、僕は1人中央線に乗って帰る。
ホームを歩くときは50リットルの大きなリュックサックを背負って、
イマナリから借りた大型カメラの入ったカバンを左手に持ち、三脚の入った袋を左肩に掛け、
着ぐるみの入った大きな袋を右腕に抱えるという状態。
そのまま西荻窪まで行ってミウラにビデオカメラを返す。
たぶんものすごく疲れた、疲れ切った顔をしてたんだじゃないかな。
実際ハンパじゃなく疲れていた。
家に帰って必要最小限の片付けはしたものの、それ以上何もする気になれなかった。
長かった一日が終わり、というか1年に1度の撮影の日が終わり。
もう1度繰り返すけど、ハンパじゃなく疲れた。