あべこべ

 
死後の世界は何もかもがあべこべであるという。
昼と夜は逆転していて、着るものも裏返し。靴も左右逆。
実際どうなのかはわからない。
この世界に対する表裏一体の反世界としてのイメージが生み出すものなのかもしれない。
この世の理屈が通じない世界というものをメタファーとして表すとこうなるという。
 
自分の慣れ親しんだ言葉であれ、ルールであれ、
それが全く通じないということほど怖いものはない。
しかも見た目はこれまでと全く変わらない、と見えるものほど怖い。
そのほんの少しの違いという裂け目が垣間見えたときの恐怖。
そこから一気に広がっていく。違和感に全てが包まれる。
姿形どころか何もかもが違うというと、そういうものだと最初からあきらめがつく。
そうじゃなくて、という裏切り。
誰かが僕を、あなたを、だまして足元を掬おうとしている。
 
この人たちは何かおかしいと気づいてふと気づくと服を裏返しに着ている。
あの世へ誘おうとしている。
そんな怪談をたまに目にする。(聞くというよりも読む)
この前も秀逸な怪談に出会った。その名の通り「あべこべ」
これは怖い。
 
夜見知らぬ場所を歩いているときにすれ違った集団の服が皆あべこべであったなら。
そして笑いかけてきたら。その目は黒い前髪に隠されて見えなかったとしたら。
あるいは目の焦点が合っていないとか。
あなたが振り向いたとき、彼らもまた振り向いてまだ笑っている。
こちらにおいでと誘いかける。
迷い込んだのはあなたなのか、彼らなのか。