餌食

先週神保町 PASSAGE で『ほぼ日の怪談 おかえり』を見つけて、思わず買ってしまう。
(ほぼ日は周りで読んでいる人が結構多く、
 僕も読まなきゃなあと思いつつこの20年一度もアクセスしたことがない)
 
ほぼ日に寄せられた読者投稿を集めたもの。
新耳袋』シリーズの語り口に慣れてしまうと、正直ゆるい。
でも、その人のそのままの言葉で綴られると独特な迫真性が生まれる。
急な悪寒に襲われ、窓を見たらいるはずのない場所に人がいて目が合ったとか。
急死して数日経っていたのを知らずにすれ違った知人の顔が真っ黒だったとか。
 
『ほぼ日の怪談 おかえり』を昨日読み終えて、
続けて1冊目の『ほぼ日の怪談』を読んでいる。
 
新耳袋』シリーズは完結後、著者二人がそれぞれ怪談本を出し続けている。
どちらの方か思い出せないが、どの本のどの場所なのかもはやわからないが、
夏に読んで忘れられない一遍があった。
細部はかなり記憶違いがあるんじゃないかと思う。
 
とある男性の話。
恋人が原因不明の急死。
美人で性格もよく、人から嫌われることはなかった。
その後男性の身の回りで怪異現象が起こるようになる。
身の危険すら覚える。一方で死んだはずの恋人の存在も感じる。
それは死後の世界があるということを思わせ、
そこに男性を誘い込もうとしているようだった。
男性は紹介を受けて強い霊力を持った人に相談し、お祓いしてもらう。
その人が言うには、あなたの恋人は偶然、
強力な憎悪を抱えた悪霊に出会ってしまい、
向こう側に引きずり込まれてしまった、
その悪霊はさらに身の回りの人を呑み込もうとしている。
恋人を使って、そう、あなたを。
 
そこで終わり。
後日談はなしか、あっても手短に済ませていたように思う。
 
こんなことってあるんだな。
女性はなす術もなく悪霊に魅入られたまま、
恋人を引きずり込むのに手を貸すことになったのだろう。
(女性は悪霊にあらがって、男性を向こう側の世界から遠ざけようとする、
 というフィクションも書けそうな気がする)
 
何が怖いって、普通に生きていても事故のように
悪意のある存在とぶつかってしまうことがありえるということ。
そうなったら無力な人間にはひとたまりもないし、
恐らく向こう側の世界でも安らかに生きていくことはできない。
成仏できず、何十年か何百年か、悪霊の一部となってこの世界にとどまり続けることになる。
そのうちに生きていた頃の人としての形を失い、怨霊だけが残る。
そしてまた次の餌食を貪り食う。
そんな強力な存在がこの国にいくらでもあって、
どれだけ修行を積んだ人であっても対処できないと別な話で読んだ。
 
日々の暮らしで何もないことを願うのみ。
願うことぐらいしかできることはない。