寓話

こういう設定。
遠い遠い昔なのか、遥かかなた未来なのか。
その国では月に一度、全国民を対象とした抽選を行い、
職業を決める。家族を決める。住む場所も変わる。
全てがアトランダムにシャッフルされる。
高い確率で奴隷となり、ものすごく低い確率で王族となる。
 
外の国から訪れる船乗りや商人、外交官だけが
同じ身分、同じ職業を保ち続ける。
主人公は世襲制の外交官としてその国の人々を観察し続ける。
主人公の一家だけが何代も変わらず特権的な役割を受け継いでいる。
国民扱いされず、蔑まれている。石を投げられることもある。
なのに元々の母国からの使者が任務を解いてくれることはない。
恐らく、永遠にない。
記録をしたため、封をし、毎月変わる使者に託すだけである。
その手紙がどのような扱いを受けているのかもわからない。
全く読まれることなくこの世界のどこかをさまよい続けているのかもしれない。
その国のその月の国王が読んで投げ捨てているのかもしれない。
 
その国の社会は緩やかな衰退を迎えている。
急激な発展はなく、その分愚かしい争いもない。
現状維持を目指して緩やかに目減りしているような。
主人公だけがかつての記録の写しを元にその移ろいを知るのみとなる。
国民たちは自らの衰退について何の興味を持たない。
そもそも生きることや死ぬことへの興味もない。
農民に選ばれたものは畑を耕し、
戦士に選ばれたものは競技場で戦う。
日々の出来事に対し適度に笑い、適度に悲しむ。ただそれだけ。
天災が時々降りかかり、他の国々から攻められて勝つことも負けることもある。
これから先100年も200年も大して変わらないのだろう。
 
その主人公は今日も変わらず、見聞きしたものの記録を書く。
どれだけの言葉を費やそうと全ては砂の城を作るようである。